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花見の前に1

バッカスがグラッシス眼鏡店に来てから数日が経っていた。


4月になったのでメイの忙しさも落ち着いているはずだ。


そろそろバッカスが来る頃かしら、と思っていたら本当に本人が来店したのでマリーは思わず笑ってしまった。


「私、超能力でもあるのかしら」


「なんだよいきなり」


バッカスが怪訝そうな顔をする。


「別に。今日来たのは花見のこと?」


「ああ。メイの仕事がやっと一段落したから打合せしてきた。来週の土曜日とかどうかな?」


「私は予定もないし、大丈夫よ。その日ならユーリがお父さんと店番してくれると思う」


「じゃあそれで話を進めるよ。時間は11時の予定だ。待ち合わせ場所は公園でいいかなと思うけど、いいか?」


「ええ。店から歩いて10分もかからないし。メンバーは私とメイとバッカスとカータス先輩……いや、カータス様も来るのかしら?」


マリーの言葉にバッカスは困ったような表情をした。


「なに、その顔……」


「あ………いや、もう1人来ることになってな」


「誰?」


「………ベデル様だ」


予想外の名前を聞いて、マリーは驚いた。


「なんで??ベデル様って皆とそんなに親しくないよね?それにカータス様とベデル様って家のことでいざこざがあるのよね」


貴族に詳しくないマリーでも知っているくらい、両家の確執は有名だ。


「そうなんだけどさ……どうしてもマリーと話がしたいそうなんだ」


「わたし?眼鏡作るときに散々話したけど」


「なんか……友人として話をしたいそうなんだ。2人きりで会うよりはみんなで会う方がマリーの負担も少ないかなと思ってさ」


「そう言えばこの間、友人になりたいって言ってたわ。あれ、本気だったのね」


「だからメンバーは俺、マリー、メイ、カータス様、ベデル様とまぁショーンさんかな」


「メイが来るのにショーン様が来ないはずないものね」


マリーはくすりと笑った。


「ショーン様入れたら6人ね。みんなのサンドイッチ作るとなると量が多くなるわね。バッカス、申し訳ないけど運ぶの手伝ってくれない?」


「それは構わないけど、ベデル様が来るのは嫌じゃないのか?」


「眼鏡の再作の件ではイラッとしたけど、それ以外では別に嫌いな訳じゃないもの。あの美形を前にして嫌がる人はあまりいないと思うわよ」


「確かにきれいな顔してるよなぁ。初めて向かい合って話したけど、男の俺でも美しさに圧倒されたからな」


「男の人なのに美人って言葉がしっくりするのもね」


「確かに。また王太子殿下と並ぶとさらにすごい」


「………まさか王太子殿下まで来るとか言わないわよね。そうなるとただの花見じゃなくなってしまうわ」


マリーの問いかけにバッカスは首を振った。


「殿下は来ないよ。花より本ってタイプだから」


「そんなに本好きなの?」


「ああ。マリーと話が合うかもな」


「やめてよ。畏れ多いわ」


「ベデル様とカイサス殿下と友人の平民とかちょっと見てみたいけどな」


「さすがに勘弁して……」


マリーは大きなため息をついた。


「ははっ。マリーなら王太子殿下と友人でも違和感ないけどな。じゃあそういうことだから。当日は俺とメイが店に来て荷物運ぶの手伝うよ。ショーンさんがいれば楽に運べそうだし」


「ショーン様に荷物運びなんて頼んで大丈夫?確か子爵家の方よね」


「俺らが頼むんじゃなくて、メイが頼んだら喜び勇んで運んでくれるよ」


バッカスが白い歯を見せて笑った。


「確かにメイが頼めば手伝ってくれそうね」


「サンドイッチ食べたいのはメイなんだから、問題ないだろうよ。じゃあそういうことだから」


バッカスはそういうと店を出ていった。


「ベデル様、そんなには私と友人になりたいのかしら?変わった人……」


バッカスの背中を見ながらマリーはそう呟いた。


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