友人6(sideバッカス)
カイサスとアーノルドの訪問から数日が過ぎ、4月となった。
やっとメイの仕事が落ち着いたので、今日は花見の打ち合わせだ。
休み時間に王宮の庭でメイと待ち合わせる。
食堂でもよかったのだが、これ以上花見のメンバーが増えるのを避けるためにも人目が少ない場所がいいと思ったのだ。
バッカスが待ち合わせ場所のベンチに座っていると、遠くからメイが来るのがわかった。
小柄で一見黒髪に見えるが、よく見ると深緑色の髪色をしている。
その髪はゆるくウェーブがかかっている。
瞳は濃い藍色だ。
タレ目で目元にほくろがある。
小柄だが、女性らしい体つきをしていて、黙って微笑むと妖艶さが増す。
この見た目と雰囲気にたくさんの男が骨抜きにされているのをバッカスは知っていた。
「バッカス、待たせたからしら?」
にこりと意味ありげに微笑む姿にバッカスはため息をついた。
「俺に媚を売っても仕方ないだろう?お前の本性を知っているのに」
「あら、女性に微笑まれてそんな態度を取るなんて……モテないわよ」
「おあいにく様。こう見えてもモテるんで」
「知ってるわよ」
メイはフッと小馬鹿にしたように笑うとバッカスの横に座った。
「メイはその笑い方がいいな」
「そう?で、どうしてそんなに元気がないのよ。今日は花見の打ち合わせよね?マリーと出掛けられるのだからもっと嬉しそうにしていると思ったのだけど」
「そりゃマリーと久しぶりに出掛けられるのは嬉しいさ………でもなぁ」
「カータス様が来るのが嫌なの?」
「それもあるけど………ベデル様も来ることになってさ」
「ベデル様?一体どう言うことよ」
メイの眉間に皺がよる。
「それがさぁ………」
バッカスは数日前にアーノルド達が訪ねてきた事を簡潔に話した。
「あの子ったら、ベデル様まで………」
「ここまでの人たらしだとは思わなかったよ」
「あの氷の騎士様もマリーに懸想してるってことよね?」
「本人に自覚があるかはわからないけど、異性として興味があるのは間違いないよ」
バッカスはため息をついた。
「貴方は学校時代からマリーのこと好きだものね」
「まぁ、相手にされてないけどな。しかし、なんでこうもライバルが強力なんだよ」
「カータス様も間違いなくマリーに惹かれていたものね。名門侯爵家のご子息を手玉にとるなんて、さすがマリーだわ」
「別にマリーはなにもしてないだろ。なんならその気持ちに全く気がついていない」
バッカスはまたため息をついた。
「まぁ、マリーからすれば平民の自分の事を、貴方を含めて貴族が好きになるなんて想像も出来ないのよ」
「確かに平民と貴族の結婚例はほぼないからな」
「魔力の力を維持するためにも貴族は貴族と結婚する義務があるもの。愛人ならわからないけど」
「そういう意味では恋愛に発展しないから安心なんだろうけど………それは俺も一緒だからな」
メイはくすりと笑った。
「そんなにため息ばかりつくなら、ベデル様もカータス様も花見に呼ばなければいいじゃない。私達3人で会えば問題ないでしょ?」
「それじゃあフェアじゃないだろ?ベデル様がわざわざ王太子殿下を連れて俺に会いに来たんだぞ。そんな卑怯な真似出来るわけない」
「バッカスはお人好しすぎるわ」
「俺はメイにみたいにはできないよ」
「あら?私みたいってどういうこと?」
バッカスはメイに冷たい視線を送る。
「知ってるぞ。今の婚約者と婚約するまでにどれだけ汚い手を使ったか」
「法に触れるようなことはしてないわ」
バッカスの視線が奥の林に注がれる。
「俺のことを殺気を隠すことなく睨み付けている、あの男。あいつと婚約するまでに色々しただろう。あいつと一緒にいたいがために護衛騎士までさせて」
「ふふ。私は欲しいと思ったものは絶対に手に入れないと気が済まないの。彼がどうしても欲しかったから私の事を大好きになってもらっただけよ」
妖艶な笑みを浮かべて林を見つめるメイにバッカスは何度目かのため息をついた。
「その愛しの婚約者に俺とメイはただの友達だってしっかり説明しておけよ。お前のせいで刺されるのはごめんだ」
「嫉妬する彼を見るとゾクゾクするのよねぇ」
「こんな女のどこがいいんだか」
バッカスはメイに聞こえないように呟いた。
「じゃあ嫉妬を感じられたんだからいいだろう?これ以上お前と2人でいると本当に刺されそうだから、ここにあいつも呼んでくれよ」
「しかたないわねぇ……」
メイは満足したのか、林に向かって手招きした。
するとものすごいスピードで1人の男が近づいてきた。
騎士だけあり、かなりしっかりした体格だ。
眉が太く、ややつり目だ。
髪の色も瞳の色も濃いめの茶色だ。
髪はかなり短い。
「メイ様、お呼びでしょうか」
そういいながら、バッカスを睨み付けている。
こ、こわい………。
バッカスはヘラリと笑みを浮かべた。
「そんなに睨むなよ」
「ショーン、ダメよ。彼は私の友人なのだから」
「はっ、申し訳ありません!」
ショーンの視線がメイにうつる。
「ふふ、私の婚約者はやっぱり素敵だわ」
メイがうっとりと微笑むと、まるでゆでダコの様に真っ赤になってしまった。
「おお、こわっ………」
バッカスはメイみたいな女に好かれてしまったショーンに心の底から同情した。




