友人5(sideアーノルド)
「それでしたら、まだ確定しているわけではありませんが今度行く花見に参加されてはどうでしょうか?」
「花見?」
「はい。メイ……いえトリトンさん発案の花見に行く予定なのでそこにベデル様も参加されれば、マリーもあまり気負わないのではないかと思います。いきなり2人きりとかだとなかなか承諾しにくいと思いますし」
メイ・トリトン。トリトン伯爵の娘で経理部所属だったか。
大きな瞳とタレ目が特徴の小柄な女性がアーノルドの脳裏に浮かんだ。
「トリトン伯爵の娘だな。彼女もグラッシス嬢と仲がいいのか」
「はい。魔法学校のときに仲良くなりまして、定期的に3人で会っています」
「なるほど。それでその花見に私を招待してくれるということか」
「招待というような大袈裟なものではありませんよ。近くの公園で花を見ながらのんびりするだけです。そのため侍女などは同行しません。メイの護衛は来るかもしれませんが」
「その集まりに私が参加して迷惑ではないか?」
「ベデル様が来て迷惑ということはありませんよ!ただ……」
バッカスは少し言い淀んだ。
「ただ………なんだ?」
「カータス様も来るかもしれません」
「リンドール侯爵家のか?」
「はい。えっと……ベデル家とリンドール家はその…」
バッカスはどう言うべきか困ったような眼を泳がせている。
無理もない。
ベデル家とリンドール家はあまり仲がよくない。
今の陛下が即位する際、現王の即位派と現王弟を即位させたかった派が対立していた。
ベデル家は現王を支持し、リンドール家は王弟を支持していた。
そのため、あまりお互いに接触しないようにしているのだ。
リンドール家は王弟支持派の代表だったこともあり、今は要職に就いていない。
その事もあって、カータスを補佐官にして欲しいとカイサスに直談判したのだろう。
「確かに確執がないとは言わないが、私の方は特に問題ない。カータス殿も仲がいいのか?」
「カータス様は私達が在籍していた時の生徒会長で、マリーが平民だからと嫌がらせされないように色々と気を遣って下さっていました。そのため、今でもマリーを気にかけているようです」
「なるほど。では花見の詳細がわかったら教えてもらってもいいだろうか」
「わかりました。4月以降になるとは思いますが」
「感謝する」
アーノルドは立ち上がった。
「あの…」
「なんだ?」
「な……なんでもありません!詳細がわかったらカイサス殿下の執務室に伝えに行けばいいでしょうか?」
「そうしてもらえるとありがたいが、カイサス殿下が本を返却する時でも問題ない。どうせまたたくさん借りるだろうからな」
アーノルドは苦笑した。
「殿下は本が好きですからね。マリーと話が合いそうです」
「グラッシス嬢は本が好きなのか?」
「はい。特に歴史書が好きみたいですよ」
「そうか………では失礼する。さすがに長く殿下の側を離れられないからな」
「お疲れ様です」
バッカスの屈託ない笑顔をみていると、何故かマリーの顔が浮かんだ。
彼女もこんな風に優しく笑う。
マリーの笑顔が脳裏に浮かび、アーノルドも思わず微笑んだ。
「では、よろしく頼む」
その笑顔を真正面から受けたバッカスが赤面している姿をアーノルドが見ることはなかった。




