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友人4(sideアーノルド)

仕事が終わったのは15時をまわったくらいだった。


「図書館は17時まで開いているから間に合うな」


カイサスが言う。


「ここから図書館まではゆっくり歩いても15分とかかりませんから間に合うかと。しかし本当に行くのですか?」


「当たり前だ。思ったらすぐに行動する。それが私の信念だからな」


図書館と言ってはいるが、バッカスがいるのは王宮図書館なのでもちろん、王宮内にある。


誰でも入れるわけではない場所だ。


必ずパスカードが必要となってくる。


「仕事も終わったし、図書館に行くのに異論はないだろう」


「それは……はい」


「じゃあ、行くか」


本好きのカイサスは嬉しそうだ。


本当に自分のために行くのだろうか、とアーノルドは疑問に思いながらもついて行った。


月に数回、カイサスの護衛として訪れる場所にまさか私用で行くことがあるとは………アーノルドは不思議な気分だった。


本をあまり読まない自分にとって図書館は護衛のために行く場所でしかなかった。


早歩きだったこともあり、図書館には10分ほどで到着した。


パスカードをかざして中に入る。


このカードを認証する機械も魔道具だったな。


魔道具の単語が頭に浮かぶと、不思議と一緒にポニーテールをした元気な女性が脳裏に浮かんだ。


「殿下!ようこそお越しくださいました」


その姿を書き消すような明るい声がする。


バッカスだ。


「ベデル様には朝お会いしましたね」


にこにこと屈託ない笑顔を浮かべるバッカスは無愛想な自分とは真逆だなと思う。


「今日はどんな本をお探しですか?5日前にいらしてからは新刊は届いていませんよ」


「さすが、前回の私が来た日付を覚えているのか」


「もちろんです。でも……借りていった本はまだすべて返還されてなかったと記憶しておりますので、本を借りに来たわけではないのでしょうか?」


いつもならアーノルドが返却の本を持っているのだが、今日は手ぶらだ。


「さすがだな!今日は君にアーノルドを紹介したくて寄ったのだ。時間はあるか?」


「はい。しかし私はベデル様を存じていますが………」


「ここではなんだ。奥の談話室を借りよう」


カイサスに言われてバッカスは怪訝そうな顔をしながらも従った。


奥の談話室に案内する。


ここは本の内容について議論したい時などに使う部屋だ。


部屋に入ると奥にカイサスとアーノルドが座ったので、バッカスも向かいに腰かけた。


「単刀直入に伝えると、アーノルドはマリーと言う眼鏡屋の娘と仲良くなりたいそうなのだ」


いきなりマリーの名前を聞いて、バッカスは驚いた。


「マリーとは、グラッシス眼鏡店のですか?」


「そうだ」


「えっと………状況がよくわからないのですが………ベデル様がマリーと仲良くなりたいと言うことでしょうか」


バッカスはやや混乱しているようだ。


無理もない。いきなり王太子が訪ねてきて次期侯爵が平民と仲良くなりたいと思っているなんて聞かされて、混乱しない者はいないだろう。


「君とマリーは仲が良いのだろう?」


「はい、魔法学校時代からの友人です」


「アーノルドは不器用な男でな。友人作りが異様に下手なのだ」


「殿下、いきなり私を侮辱しないで頂きたい」


アーノルドが口をはさむ。


「事実だろうが」


「事実だとしても今言う必要はないかと思います。そしてお言葉ですが、いきなり本題に入りすぎてバッカス殿が混乱しています」


アーノルドの言葉にバッカスは思わず頷いた。


「ほら」


「なんだ……君のためにひと肌脱いでやっているというのに………私は面倒な言い回しは好きではないのだ」


「貴方が要件だけ言うタイプなのは理解していますが、さすがに説明不足です」


「………だったら君が話すといい。私を本を見てくるよ」


カイサスはそういうと


「私へのおすすめの本はあるか?」


とバッカスに聞いた。


「あ……はい。カイサス殿下は現在、他国の歴史書をよく借りていらっしゃいますので、『ベガ王国の歴史書(初期)』などがいいかと」


「確かにベガ王国の歴史書は読んでないな。見てくるよ」


カイサスはそういうと談話室から出ていった。


とても嬉しそうな顔をしている。要件を伝えたので自分の役目は終わったと思っているのだろう。


やっぱりアーノルドのためではなく自分が本を読みたかっただけではないだろうかと疑ってしまう。


「あの………護衛のために一緒に行かれた方が……」


バッカスが聞くと


「ここはセキュリティがしっかりしているから問題ない。殿下はああ見えて強いからな。それより、いきなり妙なことを言って混乱させたな」


とアーノルドは口にした。


「いえいえ!いきなりマリーの事を話されたのでビックリしましたが………あの………本気で友人になりたいと思っているのでしょうか?」


「平民と仲良くなりたい言うのはそんなにおかしなことかな」


「まぁ……一般的な貴族の考え方からしたらおかしいかと」


「そうか………でも彼女とはもう少し話を見てみたいのだ。聡明だし魔力も高い」


アーノルドに言われてバッカスは困ったように眉根を下げた。


「まぁマリーが魅力的なのは認めますが………で、私になにをして欲しいのでしょうか?」


「そうだな………もし可能ならグラッシス嬢と会う機会を作って欲しい」


「それだけでいいのですか?」


「ああ。そのあとは自分で何とかする」


アーノルドの言葉にバッカスは考えるように顎に手を添えた。


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