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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
FINAL MISSION: 彼こそが、ダーティ・スー
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Extend 05 所詮は他人の家族だし

 今回はロナ視点です。

 期間が開いてしまい申し訳ないです……


 どでかい二足歩行怪獣が砦の塔を突き破って出てきた。

 ズシンズシンと地響きを起こしながら、夕日の沈む帝都の方角へ歩いていく。


 あたしは、それを見上げているしかなかった。

 だって、この怪獣の鱗の色はさっきあたしを助けてくれたエウリアと同じだったから。


 そのいびつに突き出た背びれに、スーさんがくつろいでいるのも見えた。


『おい、スーさん。また何かやらかしました?』


『ふはは! 人聞きの悪いことを抜かしやがる。俺は徹頭徹尾ず~っと、ただの見物人だったぜ』


 嘘つけこの野郎。

 見物人だから足元の空き缶にコインを投げ込むのも自由だとか抜かすんでしょう。

 こいつの介入は疑いようがない。

 あたしの時だって、紀絵さんの時だって、そうだったもん。


『……というか、また先に行くんですか。毎回毎回、雑に置いてけぼりにしよってからに。こちとら、お子様連れのゲストさんもセットなんですよ』


『ああ、塔の中で見かけたお嬢さんかい。なら心配無用さ。迎えを寄越した。お前さんのよく知っている奴だぜ』


『そーですか。どーもどーも。変な奴じゃなけりゃ誰でもいいですよ』


 どうせ変な奴なんだろうな。


『お前さん自身で決めてくれ』


 あー……これ絶対に変な奴が来るパターンだ。

 心の準備をしておこう。


 じゃ、ボス部屋みたいなところに急ぎますか。

 壁が崩れているし、まともに登るより外からショートカットしたほうが早いや。

 背中の翼手を展開。

 うん、大丈夫だ……メンタルおかしくはなってない。

 あたしは驚くほどクールさを保てている。


「よいしょ、よいしょ」


 はい到着。

 そしてエウリアの娘――源氏名“メルリル”とご対面だ。


「やぁ、どもども」


「きゃぁッ!?」


 あ、やっべ、妊婦をビビらせちゃった。

 それは流石にダメだろ、あたし。

 ……いや、そもそもこんなところに来るのが悪いだろ!


「そんなお腹で歩き回るような場所じゃないでしょ、ここ」


「馬車で連れてきていただいたのです。おじさま――ええっと、デュセヴェル管区長の夜伽として」


「デュセヴェルねぇ……資料には目を通しましたけど。でも、あのおっさんが、あんたみたいな子供を? じゃあ、お腹の子は……」


 言葉が出てこない。

 あたしは、人差し指でメルリルのお腹を指し示しながら、顔とお腹を交互に見比べた。


「お腹の子は、おじさまのですよ」


 そう言ってメルリル幸せそうな表情で、お腹を撫でる。


「あいつ……ロリコンじゃねぇか。おぇッ」


「あなたもおじさまを悪く言うのですね……あなただって子供ではありませんか」


「論点をすり替えないでもらえます? あたしはどうでもいいんだよ。幽霊みたいなもんだし、こう見えて20代だから」


「嘘……」


 どうせ信じないと思ってたよ!

 クソが!


「ていうか、さっき砦が爆発しましたけど、デュセヴェルは無事なんです?」


「死にました。エウリアは“引っ叩くだけ”と言っていたのに」


「意外とすんなり認めちゃうんですね」


「……言おうが言うまいが、事実は変わりませんから」


 ――気丈な言い回しだけど、ねぇ。

 なんだかんだで両目から、次々と涙が流れているんだよ、あんた。

 ホントは割り切れないんだろ。

 無理すんなって。


「少し、休憩します?」


「は、はい……」


「ちょっと休んだら、あたしの背中から生えている青白い腕あるでしょ。こいつに座ったらいいですよ」


「半透明ですけど、座れるのでしょうか?」


「どうとでも」




 *  *  *




 ――道すがら、お互いのことを話した。

 メルリルは、あたしの過去について「親を大切にできない上に、世界の摂理を乱すなんて、度し難い」などとディスってきやがった。

 あたしはメルリルの「すべては試練ですから」などという、周りのクソ野郎達にとって都合の良い考え方に反吐が出そうだった。


 すぐに喧嘩になっちゃったから、お互いに黙るしかなかった。

(逆に他の女ってなんであんなに表面上仲良くするの上手いんだ……? あたしには、人と仲良くする才能が無いのか!?)


 黙々と歩く。

 すると、轟音と強風があたし達を通り過ぎた。

 飛行機みたいなのが、上から降りてくる。

 なんか流線型の……アレ、なんて機種だったっけ、ヒコーキは詳しくないんだけど。


 で、あたし達の目の前に着陸した。

 スピーカーからナターリヤの声が聞こえてきた。


「おやおや? こんな寂れた街道跡地で人力車の真似事とは酔狂ですな?」


「あれ、いいんですか、復活なんかしちゃって」


「制度上のバグを利用しているから安心安全ですぞ。ほら!」


 コックピットの窓ガラスが開いて、計器類のところに青白い光が浮かび上がる。

 それはほどなくして、ナターリヤの形になった。

 ……へぇ?

 手のひらサイズの立体映像ねぇ。


「人工知能とでも言い張るつもりです?」


「ムハハハハハハ! まあ、いわば条件付きの復活。そう何度もできることでもありませんからな。それより――」


 ナターリヤの、声のトーンが低くなる。


「――乗って行く? エウリアって子に、ちょっと伝言を届けるつもりなんだけど」


「妊婦を乗せても大丈夫なもんなんです?」


「ご心配なく。魔術的な処理でGを最低限に抑制するから、お腹の子にも優しいわ」


「それじゃ、まぁ、せっかくですし……あんたも、それでいいです?」


「え!? え、ええ……そう、ですね。一刻も早く会いに行きたい」


「へぇ……さっきまで“あんなの親じゃない”とまで言ってませんでしたっけ?」


「そ、それとこれは別問題ですっ!!」


「そうですか」


 めんどくせぇな。

 ムキになったらお腹の子に良くないだろ。

 いっそ安全なところでジッとしとけよ。


 ていうかよ!

 妊婦の護衛とか、一回だけで充分なんだよ!!

(どっちも孕ませたのがクソ野郎っていう共通点まであって、こっちまでお腹いっぱいになりそう)


 わちゃわちゃしている間に、マジで数分で帝都にたどり着いてしまった。

 そりゃあ街道を馬車とかで行くのと、空をジェット機で突っ切るのとじゃあ、断然違うよね……

 文明の利器って、やっぱりすげーや。


「あの二足歩行してる怪獣いるでしょ? アレです」


「……エウリア、また随分と変わり果てた姿ね。今までで一番大幅に変わったかも」


「ちなみに石造りの砦なんかはビームですぐに焼き払っちゃうくらいにはヤバいです」


「わかった。直撃弾を回避しながら接近するから、外の景色は気にしないこと。よろしいわね?」


 は?

 いや、お前、いくらG吸収するって言ったって、アクロバット機動しながら突っ切るのはお前ちょっ――ああああああああああ!!



「あんたさ、妊婦乗せてんの忘れてません……?」


「だから外を見るなって言ったじゃない。三半規管と外の景色のギャップで気分を悪くするんだから」


 いや最初に理由を説明しろよ。

 そんで了承する前に飛ばすなよ。


「で? 目の前まで来たけど、どうする? 乗り込む? それとも、あそこの黄色いコートの度し難い馬鹿に文句の一つでも言いに行く?」


「どっちも。ただしそこのガキは安全運転で運んでやってくださいよ。当人は産む気らしいですから。そうでしょ?」


「当たり前でしょう!? 生まれてくる子の名前だって、もう決めてあるのですから!!」


「いや叫ぶなって。一体どういう教育受けてきたんだか。あんたの親の顔を見てみたいよ」


「そこにいる怪物がそうでしょう!? 認めたくないけど!」


 この怪物母ちゃん、ひょっとして娘の腹の中の孫を堕胎させようとしてくるんじゃないかな……

 とにかく、嫌な親子喧嘩が始まった。

 あたしからすれば“しなくてもいい敵討ち”をしようとする娘。

 そして、対するは何か変なものに取り憑かれておかしくなった母親。


 これさぁ……あたし、介入したほうがいいのかな?




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