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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION18: スワンプマンを待ち侘びて
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Task6 ナターリヤと共同でグリッチャーを倒せ


 俺は食残しが無いかどうかを調べようと、ぶらついていた。


 スマートフォンが振動する。

 ここがアメリカ大陸の外だと承知の上で、スマートフォンは、いっぱしに国際電話を受信してみせた。


 ハッピーバースデー、インターナショナル!!

 こっちの地球じゃあ通話サービスがどうやって動いているのか知らんが、どうせ傍受を喰らったところで困る懐もあるまいよ。


 じゃあ、応答だ。


「ごきげんよう、俺だ」


『いやいやいやいや。ごきげんようじゃねェんだわ』


「ロナ。随分と元気そうだね」


『笑わせんなスーさんのウンコ野郎、耳掃除しとけ』


「膝枕で耳掃除してくれるのかい! そいつはどうも! それで要件は」


『ナターリヤさんがしびれ切らして、あたしに銃を突きつけてGPS追跡とか諸々をやらせてきたんですけど?』


「俺の居場所、判るのかい」


『もちのロンのロンギヌスですよ。飛空艇でそっち向かってるとこです』


「そりゃあ丁度良かっ――」



 ――なんと、一瞬でお空が暗くなっちまった。

 ワープ航法とは聞いていないぜ。

 そんな便利でゴキゲンなもんに幾ら注ぎ込んだのか。


 とはいえ、俺としちゃあナターリヤとウィルマ、どっちがジャンヌの心臓に刃を突き立てても別に構いやしない。


 どうせ、いるんだろうぜ。

 ジルゼガットの奴は、きっとウィルマに入れ知恵して、また“特別な方法”でコンティニューさせている。

 本来、くたばったらその世界には出入りできない事になっているが、ジルゼガットはそれを捻じ曲げられる。

(代償で怪物になっちまうが、まあそれは些細なもんさ)



「……私を待たせるから、こうなるのよ」


 ナターリヤが、飛び降りてきた。

 だけじゃなくて、俺の頭上に着地してやがる。

 続いて紀絵とロナが。


「待っていろと頼んだ覚えも無いぜ。“野暮用を済ませたら連絡する”とは言ったが」


「具体的な説明も無しに野暮用とだけ言い捨てて出ていくなんて、雇用主を舐めている以外の何事でもないわ。ああ、反論は許可しないから」


「ふはは! 聞いたかよ、ロナ! この女は取引関係に優劣が生じていると信じて疑わないらしいぜ! 神様にでもなったつもりかよ!」


 面倒だから、ロナに振ろう。

 どうせ助け舟なんざ出しちゃくれんだろうが。


「あははは。大爆笑ですよ。スーさん報連相と無縁なのに、今更ですね」


 ほらね!


「そうですわね!」


「いや紀絵さんあんたも大概ですよ」


「ウッ」


 よし、それでいい。


「じゃあ説明しよう。このユーラシア大陸以外のグリッチャーは俺が片っ端から始末してやった」


「「は!?」」「へ!?」


 いい間抜けヅラだ。


「それとセンチネルだが……もう覚えるのも億劫でね。名簿カタログを読み終える前に眠くなってきた」


「あちこち散り散りになっていますし、挙げ句、非正規の奴も含めると1500くらいですもんね」


「わたくしの前世で携わったスマホゲーでも3分の1くらいでしたわ……」


「ああ、多すぎる。だから片っ端から猫に変えてやった」


「「「――猫?????」」」


 見たこともない表情ツラをしてやがる。

 この快感、癖になりそうだ。

 せっかくバスタード・マグナムのシリンダーに詰めてあるし、一つつまんで見せてやるか。


「この“仕掛け弾”(ギミックバレット)を使えば、苦難ワケはないぜ。

 それで、ナターリヤ。お前さん、ジャンヌ以外のセンチネルに恨みはあるかい」


「別に」


「それでいい。気に入らん奴を殴るのに、背後ケツを気にしたくはないだろう」


「だからスーさんが、ナターリヤさんとジャンヌのガチンコ対決デスマッチに邪魔な要素は全部取っ払っちゃったと。

 あちこちの問題を現地の人が解決する上でも邪魔になっちゃいますもんね」


「……お前が? 一人で?」


 ナターリヤは訝しげに目を細めて俺を見る。


「……いいえ、ありえないとは言い切れないわね。この前の戦いぶりを観測していたから」


「折角なんだ。これからは近くで俺を監視するといい」


「言われずとも」


「仲間はずれが嫌なら、そう言ってくれても良かったんだぜ」


「……ふんっ」



 いい返事だ。

 じゃあ、タスクを消化しよう。

 メガホン片手に戦場へエントリーだ。

 センチネル共がグリッチャー共と仲良く戦闘中だから、よく聞こえるように宣言しなきゃならん。


 ズドン!

 ズドンズドン!!

 ズドンズドンズドン!!!

 “覗き見の妖精”を景気よく、6つの方角へ飛ばしていく。


 弾頭は人の頭と同じくらいで、火薬自体はごく普通のものだ。

 角度をつけりゃあ、何処に落っこちるかをある程度は調整できる。

 あとで現場中継してもらわにゃならん。

 せっかく対応アプリも高いカネを払ってインストールしたんだ。


 じゃあ、始めようか。


「覗き見をしていたお嬢ちゃん達! 俺の戦いぶりを、ちゃんと観察してやがったかよ!

 これからお見せするのは、この俺ダーティ・スーと愉快なセンチネルもどき達の世界救済ショーだ!

 それじゃあ麗しき出演者の皆々サマ。心ゆくまでグリッチャーを蹂躙エンジョイしてくれ!」


 目配せを3つ。


「はいはぁーい」


 ロナは気のない返事とは裏腹に、中折れショットガンに弾込めをしている。

 まるでモヒカン相手に喧嘩を仕掛けるシーンのメル・ギブソンだ。


「ええ、よろしくてよ!」


 紀絵は杖を上に掲げて、やる気充分。

 今回はショッキングな事をしないから、心配無用だろう。


「お前に指示される謂れは無いのだけど……まあ、いいわ」


 ナターリヤ。

 お前さんはてめえの肉体を培養して作らせた。

 培養装置を転送して作るなんて大それたやり口で、現世に蘇った。

 とびきり上等なイカサマを見せてくれ。




 そして、始まった。

 圧倒的なパワーを持った俺様達の、グリッチャーをいたぶる至福のひと時が!!


 地上型はロナが相手取った。

 丸鋸の刃とパンツァーファウスト、それに背中から飛び出た青白い翼手が容赦なくグリッチャーを粉微塵に変えていく。


 飛行型は紀絵が相手取った。

 大技ばかりで疲れるんじゃないかとも思うが、酒を一気飲みしながら魔力を回復してやがる。


 そしてナターリヤは、空中も地上もお構いなしだ。

 武闘大会で集めた勇者共の能力を見事に模倣して、使いこなしていた。



「ロナ、彼我の戦力差は如何程かしら?」


「レーダーアプリによれば、あたし達を中心に半径1キロメートルで2000体のグリッチャーが発生していますね」


「いいわ。まるごと焼き払ってやる……――奏空そうくう迅竜閃じんりゅうせん!」


 紳士的なステッキを一振り。

 擦り切れたビデオテープを再生したような白いチリチリが、竜巻のように集まりながら遠くまで進んで行くと、その往く先々を引き裂いていく。

 ツトムくんの真似っ子だが、その威力は桁違いだ。

 宴会芸どころじゃなくて、これがグリッチャーには特別よく効くらしい。


 だけじゃなくて、カラシニコフ突撃銃を収納インベントリから取り出した。

 甲高い音と共に、青白い弾が稲光のように飛んでいく。


浮遊双脚(エアーソール)!」


 ほうほう。

 空を飛んで、お次はどう来るのかね。


「――千篇(サウザンド・)雷光掃波(ヴォルテックス)! 極光電雷縛熱鎖(プリズム・チェーン)!」


 まるで近接信管を作動させたミサイルだ。

 グリッチャーの集まっているところへ飛んでいき、雷の爆発を生み出していく。


 四方八方に鎖まで伸ばした。

 小粒なグリッチャーを鎖で絡め取って、それを雷で焼き尽くす。



「は、ははは……倒せる! 倒せるわ! 私でも、グリッチャーを殺せる!」


 いつになく楽しんでいるらしい。

 他のセンチネル共が呆気にとられているのもお構いなしに、バカでかい四足の脳味噌みたいなグリッチャーなんかも空中に蹴り上げてボコボコと殴っていた。


 そして、巨大四足歩行脳味噌グリッチャーは、爆発して周りに青緑色の雨を降らせた。

 その中心で杖を片手にバンザイするナターリヤ。


「よっしゃあああ! 人工ボディ受肉マジ最高ォォオオオオ!!!!!!!

 ハアァァラショォオオオオオオオオオオオウ!!!!!!!」


『……スーさん、あいつ大丈夫ですかね?』


 念話で、ロナの不安げな声が届く。

 だが俺は動じなかった。


『ようやく巡ってきたチャンスだ。ちょいとばかりはしゃいだところで咎めだてしなくともいいだろうさ』


『ちょっとの範疇って言えます? あれ』


『紀絵と高速道路でドライブデストロイデートをした時だって同じようなもんだったし、お前さんが初めて背中から手を生やした時だってさしたる違いは無かったぜ』


『まあ、スー先生ったら! 照れてしまいますわ!』


『……はぁ、制御できる自信があるなら別にいいですけど』



 放っておいても、あっという間に片付いていくな。

 適度に休憩を入れないと、肝心な時に電池切れになっちまったら困る。


「さあお前さん達! 見学ツアーはしばらく続くぜ! 救世主サマのツラを拝み続けたけりゃ、付いておいで!」



 東へ進めば進むほど、グリッチャーの大群は激しさを増していった。

 だが今更、苦戦する相手じゃなかった。



「世界を直接救ってみたご感想は、どうかね」


「ハラショー!!! 今までの鬱憤をがっつりと晴らせるわね!!! あとはジャンヌをブッ殺せば完璧、もう何も思い残す事なんて――……いえ、不可能な事だけど、これだけの力を前世で持てていたら、とは思う」


「あの、いきなり素に戻らないでくれます?」


「これが噂の“スンッ……”てやーつですわね」


 まったく!

 退屈しない雇い主サマだぜ!


「生前、これだけの力があれば、私は絶望の中で死を選ぶ事も無かった。

 けれど、あの死を乗り越え……いいえ、飛び越えてしまったからこそ、私はここに存在できている……嬉しくて悔しくて、それでいて虚しいわね」


「急にしらふになっちまうから、外の寒さが肌に来るのさ」


「そうね。だから、もう少しだけ……この力に溺れていたい」


 決めるのはお前さんだ。

 心ゆくまで、どうぞ。


 もうすぐジャンヌのアジトだ。

 最高の思い出になりゃいいんだが。




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