第九話 影武者作戦
血の神殿、最深部。
空気は重く、赤黒い光が石壁を照らし、禍々しい魔力が肌を刺す。
そこで、俺たちは立っていた。
勇者アルベルト。
必殺の仕事人の俺、リスク。
黒魔術師マーリン。
白魔導士のシスターマリア。
女海賊グレイス・オマリー。
そして反逆の逆の戦士、バルドル。
だが、相手はあまりにも強大だった。
闇の司祭カザールの禁術によって召喚されたのは
《鉄壁の巨人ゴルザン》
全長十メートルを超える鋼の巨体。右手には神殿の柱をもぎ取ったような鉄棒。
その一撃は岩を砕き、地を割る。
「グオオオオオオォォン!!」
ゴルザンが柱を振り回し、空気が爆発したような轟音が響き渡る。
飛び散る瓦礫、地面を踏みしめれば神殿が揺れ、床に亀裂が走る。
「くっ……動きが読めねぇ……!」
俺たちは各々に回避しつつ、距離を取りながら攻撃の機会をうかがっていた。
だが
(……何か、おかしい)
俺は戦いの中で気づいた。
この巨人、どこかぎこちない。
その動きはまるで―
(大型犬をうまく制御できないダメ飼い主みたいだな……)
そう。カザールとゴルザンの連携がまるで取れていない。
というか、カザールが叫んでいる指示がちぐはぐなのだ。
「こらゴルザン、柱を壊すな!修理代がいくらすると思ってる!」
「こらゴルザン、地面に穴を空けるな!金がかかるんだぞ!」
カザール、あいつは……ケチだった。
その上ゴルザン、右手と左手、右足と左足すらわかってねぇ。
「右手で左にいる勇者を殴れ!」
「左足で右にいる魔法使いを踏み潰せ!」
どちらだよ!!
ゴルザンはフリーズした。
完全に思考停止だ。
(……いける!)
俺は影武者作戦を作動させる
「そうだゴルザン、柱をなぎ倒せ!!」
「グオオオオオオォォンッ!!」
巨人の鉄棒が唸りをあげて振り下ろされる!
ズガアアアァァァンッ!!
柱が粉砕され、瓦礫が四方に飛び散る!
「やめろぉぉぉ!!ゴルザン!!柱を壊すなって言ってるだろぉおおお!!」
カザールの悲鳴が響く。
(効いてるぞ、影武者作戦!)
「ゴルザン、床を踏み鳴らせ!」
「ウォオオオオオォン!!」
ゴルザンが神殿全体を揺るがす地団駄を踏む!
床に無数の亀裂が走り、装飾は崩れ、壁がひび割れる!
「や、やめろォォォ!修繕費がッ、バカにならんのだぁああああ!!」
カザールの声は枯れ、しゃがれ、もはや泣き声のようだった。
とどめだ―
「ゴルザン、右肩に乗ってる奴を殴れ!!」
「グオオオオオオォォンッ!!」
巨人の鉄拳が、迷わず右肩に振り下ろされる!
ドゴオォォォオオオオン!!
「ヤメロゴルザン……」
最後のかすれ声を残し、カザールの身体は吹き飛び、
壁の邪神像に叩きつけられ
グシャリッ!
血飛沫と共に、動かなくなった。
闇の司祭、カザール撃破。そして魔法効力がなくなり消えていく鉄壁の巨人 ゴルザン。
俺たちは勝った。
「……影武者作戦、成功ってわけだな。」
神殿の崩壊が進む中、俺たちは勝利の余韻を胸に、血の神殿での闘いに勝利した。
「ヨクモ、ヤッテクレタナァ」
しかしカザールはまだ生きていた。
「コノ・セツジョク・カナラズ・ヤ・」
「トゥーラ・エルヴァ・ノクス>
星の彼方、道を開け。
我が意に応えよ、移転の門よ!」
移転魔法 《エクソダス・ゲイト》
闇の司祭カザールは、重傷を負いながら闇の光と共に魔王城へと帰還した。




