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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:バイオリン殺人交響曲』

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第4話 死の旋律と閉ざされた扉

赤と青の光が、王都フィロメル音楽堂の夜を染めていた。

救急車とパトカーが並び、規制線が張られる。


控室の中には、冷えきった空気と、バイオリンのかすかな余韻が残っていた。

アマリリス・エルフェルト、世界的バイオリニストの死は、あまりに静かで、あまりに不自然だった。


「検視官、搬入完了。遺体の状況、確認します」


警察の現場責任者・宗形警部補が、防犯マスク越しに声を張った。


「死後硬直の具合から見て……死亡推定時刻は演奏終了からおよそ一時間以内。外傷はなく、争った形跡もなし」


「毒物の可能性は?」


「目立った泡や出血はなし。だが、口元に若干の変色がある。詳しくは司法解剖を待たないとわかりません」


一方、控室の扉とその周辺には、数名の鑑識が散らばっていた。


「ドアの施錠は、内側から行われていました。内鍵のロックバーが完全に降りていた状態です」


「開口部は?」


「窓なし。換気口は構造上、成人一人が通るのは不可能です。監視カメラも確認済みですが、22時以降この部屋への出入りはなし」


宗形は、無言で額を押さえた。


密室。


「完全な密室殺人、か……」


カズヤは、震える指先でアマリリスの残した楽譜を見つめていた。

古びた五線譜、ところどころに消えかけた鉛筆の書き込み。


「《夜想の約束》……やっぱり、あの曲だったんだ……」

彼の声はほとんど聞き取れないほど小さかった。


「知ってるのか、それ」


背後から重く響く声。アイゼンハワードだった。


「彼女がかつて師と共作したとされる、未発表の楽譜です。でもその存在は、誰も……証明できなかった」


「じゃあ、誰かがこの部屋に“置いた”可能性もあるな」


アイゼンハワードの視線が、アマリリスの亡骸と、弦の切れたバイオリンへと向けられた。


その時。


「すみません! これを見てください!」


鑑識の一人が声を上げた。

指差したのは、バイオリンの弓についた“リードグリース”の痕跡。


「弓の松脂が、部分的に変色しています。通常の松脂とは違う可能性があるかもしれません」


宗形が目を細めた。


「調査に回せ。成分分析を急げ」


控室の外で、妖子が壁にもたれていた。

ただの疲れではない。彼女は、何かを隠す人間の顔をしていた。


「……なぜ、弦が切れた?」


彼女はぽつりと呟いた。

そして誰にも見られぬように、自分のスマートフォンのメモ帳を開いた。


そこにはこう書かれていた。


【22:01】演奏中、E線が断裂

【22:09】舞台から控室へ(監視映像なし)

【22:11】控室ドア施錠

【22:12】音声記録:無音の3秒間

【22:13】拍手開始


目を閉じる。

あの夜、拍手の“空白の3秒”――何があったのか。


(私は、何を見落としてる……?)


そのとき、ハルがゆっくりと妖子に近づいてきた。


「……アマリリスが死んで、あなたは……悲しいんですか?」


「…………」


「それとも、“解放された”?」


妖子は答えなかった。

ただ、目をそらしただけだった。


事件は、まだ始まったばかりだった。

そして“音楽”の中に、何かが潜んでいた。


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