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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『カズヤと魔族のおっさんの事件簿:バイオリン殺人交響曲』

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第1話 鳥取への“やけ旅”に出る。

挿絵(By みてみん)

アイゼンハワードは、スーツの内ポケットから小さな銀製のスキットルを取り出し、ウイスキーをひと口飲むと、しわの多い手でカズヤの肩を叩いた。


「女にフラれた時は、砂に埋もれて忘れるもんだ。よし、鳥取行くぞ」


「……鳥取?」


「そうだ。砂丘がある。あそこに心の全部、埋めてこい。ちょうど、旧知の妖子あやこも音楽祭で鳥取にいる」


「音楽祭って?」


「天音交響祭。クラシックから前衛音楽、はては子守唄まで演奏される、東洋一の奇妙な音楽の祭典だ」


カズヤは呆然としたまま、その数時間後には、新幹線と特急を乗り継ぎ、鳥取駅に立っていた。


駅前には、見事に何もなかった。


「……これが鳥取か。やけに空が広いな」


「いいか、カズヤ。大事なのは心の解像度だ。空と地面だけで充分だ」


そう語るアイゼンハワードの目はどこか遠くを見ていた。彼が元・MI6の諜報員であり、今は人間界でただの“おっさん魔族”として年金暮らしをしていることを、カズヤはこの時あらためて思い出す。


そして2人はタクシーに乗り、鳥取砂丘へ向かった。


砂丘のてっぺんで風を受けながら、カズヤは叫んだ。


「うおおおおおおおおおおっっ!!」


「よし、声が足りん。もっと腹から出せ」


「じいちゃん!叫んでも何も変わらないってば!」


「だが気持ちは変わる。砂に叫べ、心の全部を」


カズヤの絶叫が風に舞ったとき、一台のクラシックカーが砂丘のふもとに止まった。


ドアが開き、姿を見せたのは艶やかな和装の女性。年齢不詳、口元に常にふわりとした笑みを湛える、妖艶な存在。


挿絵(By みてみん)


「おやおや……おっさん魔族と、若いの一匹。砂丘で叫んでるのはあんたたちかい?」


妖子あやこ。お前こそ相変わらず、色気で空気を歪ませる女だ」


「褒め言葉として受け取っとくよ」


妖子は、天音交響祭のゲストとして鳥取を訪れていた。妖怪と人間のハーフである彼女は、その艶やかな歌声と怪異譚の朗読で知られる“舞台の魔女”。


「今夜の演奏会、来るといい。舞台裏にも入れるよう手配しといた」


「また何か事件でも起きそうだな」


「フラれたばかりの男と、元スパイのおっさん魔族が、平穏に旅できるわけないでしょ」


そうして、カズヤとアイゼンハワードは、音楽祭という非日常の渦に巻き込まれていく。

事件の幕が開く、運命の交響曲。

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