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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第16話 ラストエンペラー上編「復讐の記憶と、堕ちた者たち」

黒王の玉座、不夜城の最奥。

静謐なる闇が広がる空間に、禍々しくも荘厳な王座が鎮座していた。


楊貴妃は戦闘モードの魔族大蛇へと変身した。


挿絵(By みてみん)


「久しぶりね、アイゼンハワード」


声は艶やかでありながら、冷たく、鋼のような怒りをはらんでいた。

そこに立っていたのは、かつてアイゼンハワードの隣に寄り添っていた女。


楊貴妃。


その肌は死人のように白く、だがその瞳はなお生者の情熱を湛えていた。

胡蝶のように舞う彼女の双爪《艶舞爪・胡蝶双爪》が、夜の空気を妖しく裂く。


「お前……生きていたのか……」

アイゼンハワードの声が揺れる。


「いいえ、“生かされた”の。あなたに捨てられて……そして、愛新覚羅様が私を蘇らせたの」


その名を聞くや否や、天井に響く低音の笑い声が落ちた。

王座の背後、光すら歪む黒き気流の中から、ラストエンペラー・愛新覚羅が現れる。


「フフ……ようやく再会だな、アイゼンハワード。我を封印してくれた借り、たっぷり返させてもらうぞ」


帝王の気迫は重力のように空間を押し潰す。

彼の周囲には、無数の瘴気の粒子が漂っていた。

そのひとつひとつが人をゾンビ化させる感染ウイルスだった。


「全員、構えろッ!!」


ダイマオウが咆哮し、地を踏み砕くように前へ出た。

トンスジェンダーは即座に筋肉の魔法陣を展開し、味方全員の防御と再生力を強化。


「私の出番ですね♡」

アイリスオオオヤマが巨大な多関節砲を肩に担ぎ、支援型超電磁兵器《イシュタルMk.X》を展開する。


「“統治コード:アクティブ”」


アイリスの瞳が金色に輝いた瞬間、精神支配の波動が放たれる。

が、楊貴妃はその目を細めて微笑んだ。


「甘いわよ、科学者さん」


彼女の傀儡糸《紅の綾》が光となって放たれ、トンスジェンダーの神経を一時的に断ち切る。

「う……ッ!? 手が……動かないッ!!」


その隙を突き、楊貴妃はアイゼンハワードに肉薄した。


「どうして私を捨てたの……!?」

「お前を捨てたわけじゃない。あのときは……」

「黙れッ!!」


叫びとともに、胡蝶双爪が閃き、アイゼンハワードの胸元を裂く。

傷口から流れる血を彼女がそっと舌で舐めとる。


「ふふ……やっぱり、甘い味。私が愛した男の味……」


その瞬間、彼女の身体が光を帯びて再生し始める。

《気の吸収》だ。


荘厳かつ陰鬱な「黒王の玉座の間」。闇に沈む石柱と金の燭台がずらりと並び、冷たい空気が重々しく漂っていた。空間の中心には六つの巨大な棺桶が鎮座しており、ひときわ異質な禍々しさを放っていた。


「まさか……兵馬俑を再稼働させていたのか」

アイリスオオオヤマが解析スキャンをかけながら呟いた。


棺桶の表面に刻まれた古代の封印符が、紫色の光を放っては崩壊していく。ひとつ、またひとつと──


ギギィ……ギィィィィィ……!


挿絵(By みてみん)


不気味な音と共に蓋が開いた瞬間、甲冑を纏った土色の兵士たち=兵馬俑が、無表情のまま立ち上がる。

彼らの動きは不自然でぎこちなく、だが致命的に速かった。

手にした矛と剣はすでに魔力で補強され、ただの土人形ではないことが一目で分かる。


「復讐は、静かに始まるのがお似合いよね、アイゼンハワード」

艶やかな声音と共に、空中から舞い降りたのは楊貴妃。

かつて、主人公と短い恋に落ち、捨てられたことで地獄に堕ちた女。


「復讐だと……!」

アイゼンの目が鋭くなる。


彼女の爪先には《艶舞爪:胡蝶双爪》が妖しく光り、手首から伸びた《傀儡糸:紅の綾》が宙を舞っていた。

目を見た者はそのまま吸い込まれそうな、絶世の魅了の魔眼が、パーティ全員を一瞬にして包み込む。


「ふふっ、懐かしいわね。その目……あのときと変わらない」


「お前……俺を、恨んでいるのか」


「ええ、とっても。裏切りは、女の記憶に永遠に残るの」


楊貴妃が舞う。胡蝶のように美しく、だが一閃ごとにアイリスオオオヤマの補助ドローンが切断され、トンスジェンダーの筋肉が一瞬硬直する。


「くっ……五感が……奪われる……!」

アイリスが膝をつき、身体の感覚を失っていく。

トンスジェンダーも防御の構えが緩み、紅の綾が背中に絡みついて動きを封じる。


「まだだ。俺は……こんなものでは、止まれない……!」


アイゼンが前に出ようとしたその時、最後の棺が開いた。


「それ以上は、許さん。『我が玉座』は……愚かな貴様のものではない」


響く重低音。

空間の中心から立ち上がったのは、ラストエンペラー・愛新覚羅あいしんかくら。帝王の衣を身に纏い、頭上に黒き王冠《死の支配冠》を戴く男。


「アイゼンハワード……貴様に封印された日から、私は一瞬たりとも忘れなかった。屈辱と、復讐の味をな……!」


周囲の兵馬俑たちが一斉に帝王に跪く。

その瞬間、彼らの体が真紅に染まり、魔力の核が一つに束ねられていく。


「“完全支配”《かんぜんしはい》開始」(意志の弱い者は即服従)


アイゼンたちの精神に直接干渉する異様な波動が襲う。

意志の弱い者から順に、瞳が濁り、立ち尽くす。


「クッ……このままじゃ……全員、飲み込まれるぞ!」


「黙って見てると思ったかァァア!!」

そこに割って入るのは、ダイマオウの拳だった。

地を砕き、棺桶を踏み潰しながら兵馬俑を何体も殴り砕く。


「オレは殴ってでも、てめぇらの復讐なんざブチ壊すッ!」


帝王と貴妃、そして無数の蘇りし兵馬俑。

対するは、アイゼンハワード達。


復讐の記憶が交錯する中で、静かに戦いの幕が上がる。


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