第8話 異空間アビスの裂け目の先へ
《アビスゲート》が開かれ、歪んだ空間の亀裂により現れた“亜空間”。
レイラとアイゼンハワードは、闇に呑まれかけながらも、強烈な光に導かれるようにして、吸い込まれるように転移する。
次の瞬間
その場所は、“現実”とも“夢”ともつかぬ幻想的な空間だった。
巨大なホールの天井には、星のような光点が浮かび、足元には影のような黒い模様が蠢いている。
左右に伸びる二つの回廊。片方は白銀の光に満ち、もう一方は漆黒の闇に包まれていた。
神殿の中心には浮かぶ球体があり、その中には複雑な魔法陣と、断片的な映像が揺らめいている。
「ここは……?」
レイラが立ち尽くす。
「“門の根源”……おそらくはこの場所が、《古代の門》の交差点……」
アイゼンハワードは震える声で答える。
そして球体が光を放ち、言葉にならぬ“声”が彼らの脳に直接語りかけてきた。
「ダークアースは、門の鍵。
光と闇が交差するところに、真なる試練が待つ。
門は二つ、過去と未来の交差点。
封じられし“闇神核”は、再び世界に災厄をもたらすだろう。」
「それを目覚めさせる者も、止める者も、お前たちの中にいる。」
「……“ダークアース”?」
レイラが眉をひそめた。
彼らが見渡すと、神殿の壁には古代文字とともに、謎の壁画が描かれていた。
一つは、巨大な黒い樹の根に繋がれた“核”のようなもの。
一つは、それをめぐる光と闇の戦士たち。
一つは、異形の存在が世界を呑み込む様。
最後に描かれたのは、“両手を天に掲げる女神”と、その背後に浮かぶ“黒い大地”。
「……“ダークアース”って、黒い大地のこと……?」
アイゼンハワードは呟いた。
神殿の奥へと進むと、二つの扉が彼らの前に現れる。
一つは“光の回廊”の果てに、もう一つは“闇の回廊”の先に。
中央には文字が刻まれていた。
「どちらか一方の扉しか開かない。
光を選べば、過去が明かされる。
闇を選べば、未来が暴かれる。
真実を知りたければ、“自分自身を試せ”。」
「……門は“二つ”。“過去と未来の交差点”……って、これのことか……!」
この神殿こそが、かつて古代文明が作り上げた“ゲートシステム”の中心核であり、次元の出入り口
すなわち《古代の門》そのものだった。
そして《アビスゲート》とは、“闇側”からその門を開くための裏口にすぎなかったのだ。
真の鍵、それが《ダークアース》。
それを持つ者こそが、世界の時間軸すらも越える権利を持つ。
堕天使アザリエルが“アビスゲート”を開いた真意。
それは、《闇神核》の完全覚醒と、その破壊力による“世界の再構築”だった。
神の審判ではなく、堕天使としての彼自身が“新たな秩序”を作り出そうとしていた。
「私が試されている……? 私の中に、あの“ダークアース”が……?」
レイラの胸元に、かつて拾った黒い欠片が脈動していた。




