第4話 秘宝 ダークアースと古代の門
霧深きロンドンの夜、アイゼンハワードはレイラと共にとある地下の倉庫にいた。そこはジェームズ・ウィンチェスターが失踪前に最後に足を踏み入れた場所。
古びた扉の奥には、埃をかぶった石板と、黒い鉱石が封印された金属箱が眠っていた。
レイラが静かに言った。
「彼が探していたのは、“レアアース”と呼ばれる古代の鉱石。でも、ただの希少金属じゃない。“Dark Earth”……かつて魔界と人間界の均衡を崩し、世界を滅亡寸前に追い込んだ伝説の闇鉱石です」
アイゼンハワードは箱の上に手をかざし、ゆっくりと目を細める。
「……この感じ、まさか……あれはヤバすぎるアイテムじゃ。魔界大戦の時、悪魔王ガイアスが用いた“闇神核”……その残滓か」
「ええ。Dark Earth は、闇の核石と呼ばれるその一部です。ガイアスが禁呪を発動するために使用した物質。それが再び人の手に渡ろうとしている……」
レイラの口調は淡々としていたが、その目はわずかに震えていた。
「ある国がこの鉱石を利用しようとしているの。Dr.ノアあのマッドサイエンティストがMI6内部に潜り込み、魔族の四天王の一人“堕天使アザリエル”を復活させる準備を進めている」
「Dr.ノア……奴か。狂った魔学者が、まだ生きておったとはな。あの魔科学の化け物がレアアースに触れれば、次は世界が爆ぜるぞ」
アイゼンハワードはレイラの目をまっすぐ見た。
「Dr.ノア、動いているということは“門”が再び開く可能性があるということです」
「“古代の門”じゃと……まさか」
レイラはポケットから一枚の羊皮紙を取り出した。それはジェームズが最後に解読していた断片であり、そこにはこう記されていた。
“ダークアースは、門の鍵。門は二つ、過去と未来の交差点。封じられし闇神核は、再び世界に試練を与える。”
「……試されるのは、わしらの方かもしれんのぅ」
アイゼンハワードの顔から笑みが消えていた。彼はゆっくりと箱に手をかけた。
「ジェームズはこれに近づきすぎた。だから連れ去られた。そして、わしが動く理由もできた」
レイラはうなずいた。
「覚悟は?」
「とうにできておる。晩ごはん抜きは避けねばならんからのう」
MI6イギリス情報局秘密情報部レイラと老紳士アイゼンハワードの足音が、再びロンドンの地下迷宮へと響いていった。




