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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第1話 喪失の果てに

挿絵(By みてみん)

空が、崩れていた。

かつて世界の中心と呼ばれたアレルシア王国は、炎に包まれ、城壁は瓦礫と化し、塔の鐘はもはや二度と鳴ることはない。


地に伏す闘いの姫

彼女の名は、ティアラ・ルフェリア・アレルシア。

この国の姫であり、

そして、かつて一人の騎士が命を懸けて守ろうとした存在。


「……どうして……あなたが……」


その問いに、彼は答えられなかった。

剣を握る手は血に濡れ、足元にはバルハラ帝国の軍旗が倒れていた。


かつての忠義を裏切り、魔王の命令も裏切った。

それは、アレルシア王国を、そして彼女を裏切る行為だった。

誰もがそう思った。


彼の名は、

アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。

通称「アル」。


その後、帝国の中枢へと潜り込み、情報を操作し、忠臣を葬り、

皇帝の信頼を勝ち取った上で

帝国を滅ぼさせた“張本人”となった。


アルは帝国の元老院に火を放ち、政を操る貴族らを暗殺し、

城内から反乱を誘発し、

一週間でバルハラ帝国を滅ぼした。


復讐だった。

愛した者を失った報いを、国家そのものに叩きつけた。


しかし

復讐を果たしたそのとき、アルの心には、何も残っていなかった。


かつて抱いた怒りも、哀しみも、焦がれる想いも、

ティアラの名を呼ぶ声すらも、

すべて、焼け落ちていた。


魔界・黒耀の王殿

地上における全ての争いが終わったその後、

アルは魔王軍の使者によって、再び魔界へと呼び戻された。


そこは、かつて彼が“死を与える者”として仕えた場所。

魔王カルヴァ・ネクロデスが支配する、終末の王座。


挿絵(By みてみん)


「よく戻ったな、アル。貴様の働き、見事だったぞ」


玉座に座す漆黒の魔王が、笑みを浮かべる。

その声には讃賞の響きと、わずかな皮肉が混じっていた。


「アレルシア王国を裏切り、帝国の心臓を穿ち、

最終的に地上の均衡を破壊した。

まさに魔王軍の誇り……いや、地上を喰らう黒きくろふくろうよ」


アルは答えない。

ただ静かに、魔王の前に跪く。


「今ならば、お前を魔界貴族のひとりとして迎え入れることもできよう。

死者たちの国の男爵として、再び我が軍に忠誠を誓え」


アルは視線を上げない。

その瞳には、生の光も、野望も、怒りすらもない。

ただ、空虚な闇が広がっていた。


魔王はふと立ち上がり、

彼の前に歩み寄り、低く囁くように告げた。


「だが、アルよ。お前はもう、ただの“魔人”ではいられない」


「…………」


「貴様に命じる。

“心を捨てよ”。

復讐を果たした貴様に、もう魂など不要だ。

記憶を捨てろ。痛みを捨てろ。名を、言葉を、血をすべてを、機構に変えろ」


それは、

命令であり、祝福であり、呪詛でもあった。


アルの沈黙は、長く続いた。


やがて、微かに唇が動く。


「……了解した」


その声には、かつてのアルの響きはなかった。

騎士でもなく、人でもなく

ただ、命じられたことを実行する、戦う器としての声音。


魔王は満足げに頷き、背を向けた。


「ようこそ、我が執行機構ギアよ。

次は、“未来”そのものを、殺してもらおう」


そして、歯車の音が響く。


深淵の底で、新たな運命の歯車がゆっくりと回り始めた。


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