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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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プロローグ 黒き翼の祝福

古き洋館の一室。

南向きの窓から差し込む陽光が、食卓に並ぶ湯気立つ紅茶と焼き立てのパンを照らしていた。


そのテーブルの向かいに座るのは、かつて魔界で“血塗られた伯爵”と恐れられた男アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。

そしてその隣には、彼の手を静かに握る女性、後藤幸子。


「……今日から正式に“夫婦”なのよね」

幸子は照れくさそうに微笑む。

指には小さな銀の指輪。アルがこっそり人間界の宝石店で選んだものだった。


「式は挙げないの」と言ったのは、彼女のほうだ。

「派手なのは苦手なの」と、どこか寂しげな微笑で。

だが、それでも彼女の声が“幸せ”に震えていることを、アルは知っていた。


「……わしに、このような日が来るとはの」


静かにそう呟いた時だった。

部屋の空気がピリリと震えたかと思うと、天井の隅に黒いもやが渦を巻き始めた。


「来たか……」


アルがため息交じりに言うと、次の瞬間

“バシュッ”という音と共に、小さな悪魔が宙に舞い降りた。


挿絵(By みてみん)


「お祝いに来てあげたよ、アルの奥さん!」


ツインテールに赤いワンピース、背中にはランドセルを背負った赤黒い悪魔の羽根。片手には豪華な金箔入りの瓶、もう片手にはラッピングされた小包を持っている。


「……あなたが、さっちゃん?」

幸子が戸惑いながらも微笑む。


「うん。ベビーサタンのさっちゃんって呼ばれてる。まあ、魔界じゃけっこう有名なんだよ、有能すぎて」

「今は殺しとかやってないから安心して。今日はちゃんと祝福しに来たんだから」


さっちゃんは満面の笑みで小包を幸子に手渡した。

「ほら、これプレゼント。アルの趣味じゃ絶対選ばないと思ってね。ちょっとは人間界っぽく、華やかにしてあげようと思って」


包みを開けると、そこには優しい桃色のエプロンが入っていた。

刺繍で「SACHIKO」の文字が丁寧に縫い込まれている。


「わあ……ありがとう。すごく可愛い……」


幸子は素直に喜び、目を潤ませた。

さっちゃんはくるりと宙返りしながら、もう一つの瓶を掲げる。


「これもあるよ。魔界の花の蜜酒。ちょっとだけ心がホカホカになる不思議なお酒」

「でもね、飲みすぎると本音が全部バレるから注意してね。うっかりアルの恥ずかしい話とか言っちゃうかもよ?」


「……怖いな」

幸子が笑い、アルも苦笑を漏らした。


「さっちゃんとアルって、本当に仲が良いのね。いつからの付き合いなの?」

幸子の言葉に、さっちゃんが目をパチパチさせる。


「うーん……いつだったっけ。あたしがまだ“感情”なかったころかな?」

「ねぇアル、あの時の話って、もう話してもいいんじゃないの?」


その問いに、アルは一瞬、目を閉じた。


思い出すのは、黒い空。血の雨。炎に包まれた王国。

心を失い、命令だけで人を殺していた少女。

そして、自分自身もまた“何も感じぬ化け物”だった頃の記憶。


「……あれは、わしらがまだ“心”を持たなかった時代の話じゃ」


その言葉に、部屋の空気がひんやりと変わる。

まるで、遥か彼方の魔界の風が吹き込んだように。


「語ってもええか、幸子」


「ええ、もちろん。聞かせて。アルが、どうやって“今のあなた”になったのか」


そして語られ始める。

忌まわしくも懐かしき、魔界の記憶。

それは、一人の魔界の貴族と、一人のギアチルドレン少女が“心”を取り戻す物語である。


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