第11話 帝国と王国、最後の戦い 中幕
夜。王城エルミナスの空に、ひときわ濃い闇が降りていた。
その闇の底から、
まるで“死”そのものが這い出すように現れたのが
帝国の影部隊《灰騎士団》。
黒銀の甲冑に、音もなく迫る刃。
夜陰に紛れた彼らは、王国の見張り台を一つ、また一つと沈めていく。
「北の第三門が……ッ!突破された……!?」
警鐘が鳴り、兵たちが寝所から飛び出すも――
すでに遅かった。
「ぐっ……うわあああああッ!!」
影の騎士たちは、死角から躊躇なく斬りかかり、
熟練兵すら、声を上げる間もなく屠られていく。
まさに、悪夢。
それが、王城最後の夜の始まりだった。
「下がれッ!私が行く!」
その絶叫と共に現れたのは
王国近衛兵団長、ベルク・シュタイナー。
重厚な鎧に身を包み、歳を重ねた身体でなお、
真っ先に前線へと踊り出る。
「姫をティアラ様を、通すわけにはいかんのだッ!!」
灰騎士団の刃を三本、盾で受け流し、
一本を捌き、一本を弾き飛ばす。
「うおおおおおおおッ!!!」
咆哮と共にベルクは剣を振るい、
前衛の一体を真っ二つにした。
続く二体も、盾ごと叩き潰す。
その剛力と殺気に、一瞬、灰騎士団が後退する。
だが
「っ……!」
血が、口から零れる。
背後盲点から回り込んだ一体に、刃を突き立てられていた。
「ベルク様――ッ!!!」
部下の叫びが響く。
「下がれ……まだ……まだ戦える……!」
ベルクは膝をつきながらも、剣を手放さなかった。
その目には、ただ姫の笑顔だけが映っていた。
「……ティアラ様……私にとって……あなたは……」
(まるで……娘のようだった……)
かつて失った家族の記憶が、一瞬、過った。
ベルクは震える手で立ち上がる。
そして、最後の一歩を踏み出した。
灰騎士団の大将格が前に出る。
「老兵がまだ立つか」
「騎士とは、そういうものだ……!」
最期の剣閃。
まばゆいほどの一撃が、騎士団長の兜を真っ二つに割った。
しかし同時に、灰騎士団全員の刃が、ベルクの身体に突き刺さる。
「ぐ……ッ……!」
倒れながら、彼は空を見上げた。
その空は、燃えさかる王都の赤に染まっていた。
「……ティアラ様……どうか、御無事で……」
そのまま
忠義の騎士は、誰にも看取られることなく、崩れ落ちた。




