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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第六話 サーテンリの記憶と邂逅

リーディオ・ゼロとアイゼンハワード、スフェラ村へ向かう


魔界の山脈地帯を越え、雲海の渓谷を抜ける一本道。

巨大な獣骨を橋に転用した“骨の渡し道”を、二人の男が歩いていた。


「……あんなに嫌ってたこの村に、まさか自分から行く日が来るとはね」

リーディオ・ゼロが呟く。


「皮肉なもんだな」

隣を歩くのは、黒マントをはためかせる中年の男アイゼンハワード。

かつて魔王軍最強と呼ばれた男にして、現在は更生保護観察官という地味な役職に身を置いている。


陽は昇りきっていたが、雲の厚い空が光を遮っていた。


「しかし、あの村……壊滅状態にしたのは確か、お前だったな」


「そうだね。サーテンリの“平和の魔法”を馬鹿にして。“才能のない連中が、魔法に触れる資格なんかない”って、言い放った。 俺は……あの村を、焼くよう指示した。」


リーディオの声は、風よりも静かだった。

足元の石ころひとつすら、罪の残響に思える。


「なら、今回が初めての“訪問”か」

アイゼンハワードが言うと、リーディオはうなずいた。


「サーテンリばあちゃんは、最後の最後まで俺に村を見に行けっていわれたけど……俺は行かなかった。」


ふと、アイゼンハワードが立ち止まった。


「リーディオ。お前は後悔してるか?」


「……わからない。 あれだけのことをして、俺が“後悔してる”なんて口にするのも、正直バカみたいでさ。 ただ、こうやって“修復の道”を選んだのは、自分で決めたことだ。だから、逃げない」


「……上等だ」


アイゼンハワードはポケットからマッチを取り出し、一本の巻き煙草に火をつける。


「なあ、ゼロ。お前、家族いたんだよな?」


「……いた。母は聖女、父は将軍。そして祖母は白と黒の賢者。でも、俺は“誰にもなれなかった”。そのコンプレックスが、あの暴走に繋がったんだと思う」


「……それでも、家族だったんだな」

 アルがそう言ったとき、リーディオの表情がわずかに揺れた。


「お前にとって“再生”ってのは、村を直すことじゃねぇ。 “自分の壊れた家族の姿”を、もう一度見つけにいくことだ。 ……サーテンリが残した“平和”ってやつの本当の意味を、見届けにいこうぜ」


「……ああ。行こう、アルおじさん」


そして二人は歩き出した。


草のにおいが微かに風に乗ってくる。

遠くに見えるのは、白い屋根と、魔力のない村のちいさな灯り。


スフェラ村。


そこにはまだ、壊されたままの記憶と、壊されなかった想いが眠っている。


スフェラ村の中央広場

ひとつだけ残された古い魔法の碑が、風に削られながらも立っていた。


挿絵(By みてみん)


その碑には、「ここに魔法を学ぶすべての命が平等でありますように」

というサーテンリの言葉が刻まれている。


魔力の有無を問わず、すべての子どもに魔導を開くために、彼女が最後に残した“願い”。

リーディオ・ゼロはその前に、静かに膝をついた。


「……30年前、俺はこの村を壊した。

 “選ばれた者だけが魔法を使えばいい”と思い込んでいた。

 そう言って、この碑も、子どもたちも、学び舎も、すべてを焼いた」


その場に集まった村人たちは、誰ひとり言葉を返さなかった。

ただ、その背後から、イレーナが歩み出た。


彼女は、サーテンリの弟子であり、村の再建を担った魔導教師。

そしてこの村を守ろうとして命を失った親たちの友でもある。


「……今さら、何を言いに来たの?」


その声には、怒りも涙もなかった。

ただ、静かな真実だけがこもっていた。


リーディオは、拳を地につけて深く頭を下げた。


「許してほしいとは言わない。

 赦されるとも思ってない。

 だけど……俺は今、ようやく“あの人の声”が聞こえるようになった」


 風が吹き、碑の表面に砂が舞う。


「“壊したものは、もう戻らない。けれど、残ったものを見つめなさい”って……

 ばあちゃんサーテンリは、俺の中で、ずっと言ってたんだ。

 だけど、聞かないふりをしていた。

 自分が犯したことに、向き合うのが怖かったから」


イレーナの眉がわずかに動く。


リーディオは、震える手でローブの内側から一冊の古びた魔道書を取り出した。


「これは……あの人の遺した、“テルマの魔導初級講本”。 燃やしたはずのその断片を、俺は獄中で修復した。 失った命は戻らないけれど、せめて、これを、未来の子どもたちに託したい」


イレーナはゆっくりと歩み寄り、魔導書を手に取る。

その手のひらに、かすかに震えがあった。


「……これは、本当に……あの人の筆跡……」


その言葉に、村人の中からひとりの子どもが前に出て、リーディオを見上げた。


「おじさん……悪いことしたのは、本当なんだよね?」


「……本当だ」


「じゃあさ。今度は、“いいこと”してくれる?」


リーディオは目を伏せたまま、かすかに笑った。


「ああ。何十年かかっても、やってみる」


そのとき、後ろに立っていたアイゼンハワードがふっと肩をすくめて言った。


「……ほらな。言っただろ、リーディオ ゼロ。“壊れたものを見つめ直す”ってのは、誰かの手を借りなきゃできねぇって」


「うるさいよ、アルおじさん……」


「ほら、また“おじさん”って言った」

そう笑って、アルは煙草に火をつけた。


灰がゆっくりと落ちていく。

その瞬間、サーテンリの碑に朝陽が差し込んだ。


光は穏やかに魔導書を照らし、そして

罪を背負った者と、それを見守る者たちの未来を、静かに照らし始めていた。



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