第9話 竜姫の試練 《妹を託すその日まで》
乾いた風が吹き抜ける、荒野の入り口。
竜の羽ばたきが、空を裂いた。
その背に乗っていたのは
シャルボニエ・ド・ラ・ヴァルモン
かつて空中戦で相まみえ、敗れながらも心を動かされた少女。
今日、再び彼女はダイ・マオウの前に現れる。
「……やはり、あなたはそこにいたのですわね、ダイ・マオウ」
「久しぶりだな。まさか、また会えるとは」
「ふふっ、わたくしが“去った”のではなく、“戻るべき場所”を探していただけ。そう思っていただきたいですわ」
微笑む彼女の頬には、確かな覚悟が刻まれていた。
「あなたに……伝えなければならないことがありますの」
「……?」
風が唸った。
その音を割って、黒き竜が再び空に現れた。
それはまるで空そのものが矢となって落ちてくるかのような鋭さ。
そして現れたのは
「姉を、紹介いたしますわ、ダイアナ・ド・ラ・ヴァルモン」
ドラゴ王国臨時政権首長、竜騎士団最高指揮官。
ドラゴに伝わる“最も気高く、最も厳しい女竜騎士”。
「ふぅん……あの“妹が惚れた”というお相手が、あなた?」
ダイアナは竜の背からすっと降り立ち、
冷たい風のような瞳でダイ・マオウを見つめる。
「貴方が“ダイ・マオウ”ね?」
目の前に立つ黒髪の少年を、ダイアナは鋭く見据える。
「……なんで俺に会いに?」
「ふふ、“会いに”なんて、甘い言葉ではありませんことよ」
ダイアナは、美しくも物騒に微笑んだ。
「これは、“妹を幸せにできるかどうかの試験”ですのよ。あなたが“婿に相応しい男”か。この私が見極めてさしあげますわ!」
「……は?」(ダイ、心底困惑)
シャルボニエ(妹)「あ、あの、姉上!まだ何も決まってませんわ!惚れたとも!惚れてないとも!」
ラッカ「おおおお、なんか始まる予感やんけ!」
リーリア(冷静)「……面倒な女の戦いが始まりましたね」
ダルツライ「め、めんどくさいわね。これ……止めたら損なやつ」
ユキネ(斜に構えつつ)「……あの姫、目がガチ」
ダイ・マオウは、頭を抱えていた。
「……惚れた?妹?なにそれ……俺はただ、竜に乗って突っ込んできたのを返しただけで……」
だがもう遅い。
姉は槍を構えている。
そして叫ぶ。
「問います!ダイ・マオウ!あなたは――」
「わたくしの妹に相応しい器か!? 貴方の正義と仁義、竜槍で計らせていただきますわぁあああ!!」
轟音。
ダイアナの竜が地面を蹴る!
爆発的な加速とともに、白銀の槍がダイへと突き刺さる!
ダイ「だから惚れてねぇってのにぃぃ!!」と叫びながらかわす
シャルボニエ(赤面)「姉上、お願い、誤解ですわああああ!」
リーリア「そろそろ魔法、使ってもいいですか?」
ラッカ「もうラブコメなのか戦争なのかわからへん!!」
竜槍と二丁拳銃が交差する。
竜の咆哮、魔弾の閃光、風を裂く女王の怒号。
そして
「くっ……マジで……姉ってのはなんでこんな厄介なんだ!!」
その言葉を聞いたダイアナは、ふと槍を止めた。
「……今、“姉”と言いました?」
「は? いや……事実だろ」
「ふふ……妹のことを“家族”と認めているのですね」
「……いや、だからって惚れたとかじゃねぇぞ」
「結構です。妹を“守る対象”と認識しただけでも……合格点ですわ」
槍を収めるダイアナ。
ダイアナを乗った竜が空へ舞い上がる。
「この試練、仮合格ですわ」
「けれど、次に妹を泣かせたら……1000の竜で踏み潰して差し上げますわよ」
竜は空へと去り、風だけが残った。
リーリア「……で? 惚れたの?」
ダイ「惚れてねぇってば!!」
ラッカ「じゃああの“仮合格”はなんなんやねん!?」
シャルボニエ(赤面)「……もう……姉上、やめてくださいましぃぃ!」
なんだか、突然ラブコメぽくなったが、竜騎士シャルボニエが仲間になった。
惚れたら負けなんだとダイ・マオウは思った。




