第8話 竜の誇り、姉妹の誓い
かつてドラゴ王国は、「空と竜と知恵の王国」と称され、永世中立国として魔界と人界の橋渡しを担う存在だった。
その誇りは高く、剣を振るわぬ気高さと、どの国にも組せぬ独立した思想によって、世界の尊敬と信頼を勝ち得ていた。
しかし。それは幻想だった。
時代が進むにつれ、「中立国=世界平和の象徴」というイメージは、寄付金と莫大な“感謝金”という形でドラゴへ集中するようになった。王都の税収はかつての15倍にまで達し、諸国からの寄進は国家予算の6割以上を占めるようになる。
だがその金は、「民」ではなく「官」へと流れていった。寄付金は謎の中間組織に吸われ、“外交促進費”と名を変えて官僚の宮殿に流れ込む。
新興官僚は次々と“竜爵”を名乗り、賄賂・癒着・汚職・公金パーティー中立という仮面の下で、堕落の宴は止まらなかった。民草は苦しみ、竜騎士は沈黙し、かつての誇りは失われた。
「なぜ、私たちが寄付を受けながら苦しむのか」
「竜の王国は、誰のものなのか」
怒りと疑念が膨らむ中、市民による抗議行進が各地で発生。
だが、抑え込むはずの守備隊もまた、ドラゴの誇りを忘れた官僚に憤りを抱いていた。
軍の若手とりわけ竜騎士団の実戦派が決起。
■ 軍事クーデター、勃発
ドラゴ王国歴 773年、秋。首都アス・ドラゴニアにて正規軍が中央官庁を無血制圧。
腐敗した大臣たちは、逃亡または国外へ追放された。
かつて“竜騎士ミッシェル”の血を引く、
王家直属の竜騎士姉妹
姉:ダイアナ・ド・ラ・ヴァルモン(現・臨時政権首長)
妹:シャルボニエ・ド・ラ・ヴァルモン(竜騎士団若手筆頭)
彼女たちは宣言する。
「ドラゴ王国は、もはや中立にあらず」
「誇りを失った“中立”より、剣を掲げた“正義”を選ぶ」
こうして、かつての永世中立の空の王国は、
“炎の竜を抱く軍事国家”へと生まれ変わった。
ここは、ドラゴ王国・本陣。
王家直属の竜騎士団、そして軍事政権を握る頂点
竜姫ダイアナ・ド・ラ・ヴァルモン!が座す軍議の間。
そこに立つのは、妹にして若き竜騎士、
シャルボニエ・ド・ラ・ヴァルモン!
「……敵は、“ダイ・マオウ”か」
「はい。民の声を背負いながら戦う、奇妙な男ですわ。
だが、力も覚悟も、まやかしではありませんでした」
「その男に、敗れた?」
「……っ、戦略的撤退ですわ」
静寂が一瞬、空気を張り詰めさせた。
だが、次の瞬間、ダイアナはふっと微笑を浮かべた。
「ふふ……顔に出ているわよ、シャルボニエ」
「へ?」
「あなた、惚れたのね?」
「ちっ、ちちちがいますわ!!!」
頬を真っ赤に染めて否定するシャルボニエ。
「隠さなくてもいいのよ。私も若い頃、一度だけ“敵”に心を奪われたことがあるの。でもね、誇りを貫くならば」
「惚れた相手を、正面から“叩き潰す”覚悟も必要よ」
シャルボニエの目に、炎のような情熱が灯る。
「……でしたら、ダイ・マオウ。あなたを“討つ”ことで、私はこの想いに決着をつけます」
ダイアナは立ち上がり、マントを翻す。
「いいわ、一緒に出陣しましょう。私の竜槍で、あなたの決意を見届けてやる」
「姉上と共に戦場に立てるとは、心強い限りですわ!」
外では、数百の竜騎士たちが出撃の準備を始めていた。
ドラゴの空に、幾筋もの竜の影が走る。
その先には、ダイ・マオウたちの陣
そして、揺れ始める地上と魔界の運命。




