第11話 華麗な乱入と地味な潜入
展望ラウンジ「天空の間」は、かつて外交の舞台にもなった空中ホール。
だが今は、魔導サイボーグ・バクザンと武装テロリストたちにより占拠され、
40人を超える人質たちが拘束されていた。
警備システムは乗っ取られ、全ルート封鎖。空も壁も塞がれている。
そんな中、現れたのは
「皆さまお待たせ♡ 華麗なる演劇のショータイム、始まりますわよッ!」
バクザンの側近が画面越しに見上げたのは、
中央吹き抜けエリアに堂々と飛び込んできた銀髪の怪盗・ムラサキ=ミミ。
紫のレオタード、翻るケープ、舞う仮面。
手には銀の拡声器、背中にはまさかの爆竹バッグ。
「……何者だッ!? 貴様は……!」
「“派手すぎる正義”ってことで♡」
バチバチバチバチ!!!!
次の瞬間、爆発音!
だがそれは火薬ではなく、巨大クラッカー音と花火煙幕。
「ハッピーバースデーでもないのにドッカーン☆」
バクザン「ふざけてるのかッ!!」
テロリストたちが彼女に向けて魔導銃を構えるが、
ムラサキは舞うように柱を蹴り、シャンデリアを使って宙を旋回。
リボン爆弾を振り回し、魔導スモークを焚きながら言い放つ。
「私の相手は10人までにしてって言ってるのに、もう15人以上はいるわねッ♡
……けど、魅せてあげる! “泥棒の足”は――伊達じゃないのよッ!」
爆音、煙幕、閃光、派手な舞!
そのすべてが、タワー内の全警備の“眼”を彼女へと向けさせていた。
一方そのころ
「……地味だな」
「静かに」
「これが戦術ですわ……」
巨大円筒の建造物 大エイド スカイ釣りタワーのゴミ置き場の裏手。
無臭スプレーを吹きかけ、巨大ゴミ箱を押しながら中に潜んでいたのは、ゼロ特殊急襲部隊の3人。
なぜなら、99階の清掃ルートは唯一、大型ゴミ圧縮ルートだけが生きていたのだ。
「ちょっと……これ、臭くない? 化粧落ちそう」
「……ムラサキが派手にやるほど、こっちは静かに行ける」
「このわたくしが、ゴミにまみれる作戦……屈辱ですわッ……!!(泣)」
バクザンの監視AIは、ムラサキの全行動を追い詰めていた。
だがゴミ箱の一つ一つが人知れずコン……コン……と、エレベーター用昇降口を滑り上がることに誰も気づかない。
「……あの子、やっぱすごいわ。怪盗っていうか、爆破劇団ね」
「でも……ムラサキが囮になってくれている今、この作戦、絶対に成功させましょう」
「……行く。正義は、音じゃなくて静かに届くこともある」
こうして、華麗すぎる乱入劇と、地味すぎる侵入劇は同時に進行した。
舞うムラサキ、爆竹を鳴らしながら高笑い。
その裏でゴミに隠れたヒロインたちは、99階へと静かに、着実に、登っていく。
やがて、正義の刃は鋼の怨念を討ち払う刃となるのであった。




