第6話 マフィアも、患者になり揺らぎはする。
深夜。
診療所の明かりだけが、町の暗闇に浮かんでいる。
ドアが、乱暴に叩かれた。
ドン、ドン、ドン。
エリオット
「……こんな時間に?」
扉が開く。
そこに立っていたのは、
黒いコートの男。
顔を歪め、腹を押さえ、血を滲ませている。
マフィアの一人だった。
付き添いの男が、低い声で言う。
マフィアA
「……治せ」
一瞬、空気が凍る。
エリオット
「断る理由なら、山ほどありますが」
さっちゃん
「いいから、寝かせなさい」
全員が振り向く。
ケンジ
「先生!? そいつ……!」
さっちゃん
「知ってる」
白衣を着ながら、淡々と言う。
さっちゃん
「でも今は 患者」
マフィアは診察台に倒れ込む。
腹部の裂傷。
内部出血。
殴られた、ではない。
仲間割れだ。
さっちゃん
「……自分たちでやったね」
マフィア
「……」
さっちゃん
「町を荒らす連中ほど、 身内に一番やられる」
メスを持つ手は、迷いがない。
治療は正確で、早い。
感情を挟まない。
しばらくして、マフィアがぽつりと言う。
マフィア
「……なぜだ」
さっちゃん
「何が?」
マフィア
「俺は、
あんたの町を荒らした」
マフィア
「スナックも、
人も、
怖がらせた」
マフィア
「……なぜ、助ける」
さっちゃんは手を止めない。
さっちゃん
「理由?」
一拍置いて。
さっちゃん
「患者だから」
マフィア
「……それだけか」
さっちゃん
「それ以上はいらない」
包帯を巻き終え、顔を見る。
さっちゃん
「ここでは、
名前も肩書も関係ない」
さっちゃん
「痛い人は、
治される」
沈黙。
マフィアの目が、わずかに揺れる。
マフィア
「……俺たちの世界じゃ、
弱ったら終わりだ」
さっちゃん
「じゃあ、
その世界は病気ね」
さっちゃん
「治る見込みは、ある」
マフィア
「……」
しばらくして、男は目を閉じる。
眠った。
エリオット
「……危険では?」
さっちゃん
「ええ」
さっちゃん
「でもね」
窓の外を見る。
さっちゃん
「誰も治さなかったら、
暴力は一生、治らない」
翌朝。
マフィアは姿を消していた。
だが、診療台には
きちんと畳まれた包帯と、
小さな金封が置かれていた。
中には、治療費ぴったりの現金。
メモが一枚。
『借りは、忘れない』
ケンジ
「……変わりますかね」
さっちゃん
「さあ」
白衣を畳みながら。
さっちゃん
「でも、 揺らぎはした」




