第6話 バザーと署名と、焼きそば
再開発予定の駅前が、久しぶりに騒がしかった。
再開発の告知が貼られて以来、
人の足が減っていたはずの場所に
なぜか屋台が並んでいる。
のぼりには手書き文字。
《駅前バザー 本日開催》
《誰でも歓迎》
《焼きそば 300円》
市の許可?
取ってない。
補助金?ない。
計画書?紙一枚。
でも、ミツ婆がいた。
「祭りはねぇ、
許可より先に始まるもんだよ」
鉄板の前で、ケンジが汗だく。
「はい次!
はい次!」
ガルド級の町民が並ぶ。
理由は簡単。
うまい。
黒川(相談役)が後ろで腕組み。
「この味はな、
“立ち退き不可”の味じゃ」
屋台の横。
手書きの段ボール。
《再開発 ちょっと待って署名》
最初は空白だらけだった紙に、
一人、また一人と名前が増えていく。
高校生が書き、
主婦が書き、
通りすがりの配達員が書く。
ケンジ、手を止めて見る。
「……町って」
一瞬、言葉に詰まる。
「まだ、動くんですね」
診療所前。
白衣姿のさっちゃんは、
一切前に出ない。
声も上げない。
署名も集めない。
ただ、来た人に言う。
「焼きそば食べたら、水飲みなさい」
医者であることは、忘れない。
ミツ婆が横で笑う。
「手出さないのが、あんたのやり方かい」
さっちゃん、肩をすくめる。
「医者はね、動ける人から動かすの」
署名台が、いつの間にか井戸端会議に。
「補償、安すぎない?」
「うちの長屋、いつから立ち退きだっけ」
「昔もこんな話あったよね」
黒川が静かに補足する。
「前もな、説明は“あとで”だった」
人が、頷く。
市の職員、遠巻き
少し離れた場所で、
森下職員が帽子を深くかぶって見ている。
屋台。
署名。
笑顔。
数字じゃない、空気。
森下、つぶやく。
「……これは、止められない」
夜、片付け
鉄板を洗いながら、ケンジが言う。
「今日の署名、
思ったより集まりました」
ミツ婆。
「数じゃないよ。“書いた”って事実が大事さ」
黒川、静かに。
「町はな、声を出すと戻ってくる」
さっちゃん診療所に戻り、白衣を脱ぎながら。
「反撃ってね、
殴り返すことじゃない」
窓の外、
まだ片付けをしている若者たち。
「自分で立つことよ。」




