第2話 説明会という名のコント
市民会館の大ホール。
入口には立派な立て看板。
《駅前再開発事業 住民説明会》
その下で、
ミツ婆が腕を組んで仁王立ちしていた。
「説明ねぇ……
“決まってから喋る会”の間違いじゃないかい?」
壇上には、
市職員、コンサル、若そうで高そうなスーツの人々。
スクリーンに映し出される資料。
・サステナブル
・エビデンス
・コンセンサス
・スキーム
・フェーズ2
ミツ婆、即座に挙手。
「その“エビデンス”ってのは何だい?
魚屋で売ってるやつかい?」
会場、ドッと笑う。
職員、咳払い。
「いえ、その……科学的根拠という意味で……」
ミツ婆、畳みかける。
「ほう。
じゃあ“根拠”って言えばいいじゃないか。
歯が折れるのかい?」
再び爆笑。
職員の顔色が一段青くなる。
ケンジが手を挙げる。
「補償内容について、
個別に説明する機会は」
コンサルが笑顔で割り込む。
「詳細は今後、然るべきフェーズで検討します」
ケンジ「……それ、いつですか?」
コンサル「検討中です」
黒川(元会長)が、静かに言う。
「それはな、 “答えません”って意味じゃ」
ざわつく会場。
司会が慌てて時計を見る。
「えー、予定の時間となりましたので……」
ミツ婆、立ち上がる。
「おや?
まだ一つも答えちゃいないよ」
その時。
後方から、
コツンと杖の音。
小学生みたいな見た目の少女
いや、450歳の元鬼教師。
さっちゃん先生が、ゆっくり前に出た。
「質問を打ち切る前に、一つつだけ教えてほしいわ」
全員が見る。
市職員が緊張しながら答える。
「な、なんでしょう……」
さっちゃん、にこっと笑う。
「今日の説明で、安心して眠れる人、何人いる?」
沈黙。
さっちゃんは続ける。
「不安を減らさず、
数字だけ増やすのはね」
杖で床を軽く叩く。
「教育でも医療でも、失格よ」
会場、静まり返る。
説明会は、
拍手もなく、ざわめきの中で終わった。
外に出る町民たち。
ケンジが呟く。
「……俺、新しくなるの、
ちょっと楽しみだったんです」
黒川が頷く。
「それは悪くない」
ケンジは拳を握る。
「でも
奪われるのと一緒だって、
今日、気づきました」
ミツ婆が笑う。
「遅くないよ。
気づいた時が、始まりさ」
さっちゃん先生は、
会館を振り返った。
「コントみたいだったね」
そして、少しだけ声を低くする。
「でもね。
笑って済ませちゃいけない回だった」
風が吹く。
さっきより、少しだけ強い仁風だった。




