第1話 再開発は、突然に
新市長就任式
「この街は、生まれ変わります」
市役所前の広場は、
やけに整っていた。
赤い絨毯。
新品の演台。
笑顔の多い来賓席。
そして、
少し居心地の悪そうな町民たち。
マイクの前に立ったのは、
新市長・鷹宮 恒一。
白い歯、まっすぐな背筋、
“改革”という言葉がよく似合う顔。
「皆さま――」
低く、よく通る声。
「この街は、長い間、停滞してきました」
町民の何人かが身じろぎする。
「若者は出て行き、
空き店舗は増え、
未来が見えない」
そこで一拍。
「だからこそ、再開発です」
拍手が起こる。
主に、後方のスーツ集団から。
「駅前を一新し、
商業施設を誘致し、
雇用を生み、
この街を」
市長は、両手を広げた。
「蘇らせます」
拍手が大きくなる。
ミツ婆が小声で言う。
「……あたしら、ゾンビかい」
隣のケンジが必死に笑いをこらえる。
市長は続ける。
「もちろん、痛みを伴う改革です。
立ち退き、移転、不安もあるでしょう」
ここで、少しだけ声を柔らかくする。
「しかし
決断しなければ、未来はありません」
その言葉に、
黒川元会長が眉をひそめた。
「説明は尽くします。
補償も、法に基づきます」
“法に基づきます”
その言葉が、妙に重く落ちる。
市長は最後に、こう締めた。
「これは、町のための再開発です」
壇上から見下ろす視線は、
どこまでも穏やかで、
どこまでも遠かった。
式が終わり、
人がばらけ始める。
誰かが言う。
「なんか、立派な話だったな」
別の誰かが言う。
「でも……
俺たち、もう決まってる感じじゃない?」
その輪の外で、
白衣の鬼が腕を組んでいた。
さっちゃん先生。
「……“蘇らせる”か」
ぽつり。
「患者に言う時はね、
まず“どこが悪いか”説明するもんだよ」
ミツ婆が聞く。
「この街、どこが悪いんだい?」
さっちゃんは、少し考えてから答えた。
「悪いところは、ない。
ただ」
市役所の建物を見上げる。
「勝手に“死んだこと”にされそうになってる」
風が吹いた。
仁風と呼ぶには、
まだ少し冷たい風。
でも確かに、
この町を吹き抜けた。
こうして、
“きれいな言葉”から始まる戦いが、
静かに幕を開けた。




