第6話 噂は、薬にも毒にもなる
朝。
ONI FAMILY MEDICAL CENTER の前に、
見たことのない行列。
ミツ婆が先頭で腕組みしている。
ミツ婆
「だから言ったじゃろ!」
「鬼医者はねぇ、死人も生き返らせるんだよ!!」
観光客A
「マジで!?」
観光客B
「魔界最強ヒーラーってここ!?」
観光客C
「SNSで見ました!!」
看板、見えない。
中。
診療所、地獄。
ガルド(町民)
「順番まだかー!!」
エルナ(臨時手伝い)
「落ち着いてくださーい!」
藤堂
「カルテが足りない!」
エリオット
「統計的にこれは完全にオーバーフローだ!」
カグヤ
「だから噂は否定しろって言ったでしょ!!」
その隅で。
黒川会長、壁に寄りかかっている。
顔、真っ青。
黒川
「……私は……別に……来たくて……」
血圧計、ピッ。
危険域。
さっちゃん、現場を見渡す。
患者。
行列。
観光客。
期待の目。
誰かが言う。
「先生なら何とかしてくれるよね?」
その瞬間。
ぷつ。
さっちゃん
「……」
白衣の袖をまくる。
そして。
ドン!!
机を叩く音。
診療所、静まり返る。
さっちゃん
「私は神様じゃない!!!」
全員、凍る。
さっちゃん
「死人は生き返らせない!!」
「奇跡も売らない!!」
「期待で人は治らない!!!」
ミツ婆
「ひっ」
さっちゃん
「私は――」
声が、少しだけ震える。
さっちゃん
「ただの医者です」
沈黙。
外の行列も、ざわめきが止まる。
さっちゃん
「診れる人数には限界がある」
「治せない日もある」
「それでも」
黒川会長を見る。
さっちゃん
「逃げない」
黒川
「……」
黒川
「噂は……」
さっちゃん
「薬にも毒にもなる」
静かに。
黒川、椅子に座る。
黒川
「……血圧、下げてくれ」
小さな声。
さっちゃん
「はい」
即答。
血圧計を巻く。
ミツ婆
「……盛りすぎたねぇ」
ケンジ
「婆ちゃん、SNS禁止な」
その日。
診療所は“予約制”になった。
看板に紙が貼られる。
「命は、並ばせない。
でも、無理はしない。」
夕方。
黒川会長、少し楽な顔で帰る。
黒川
「……噂は、私が止める」
さっちゃん
「お願いします」
さっちゃん(独白)
強さって、
全部できることじゃない。
できないと、言えること。
ONI FAMILY MEDICAL CENTER の明かりが、
今日も灯る。
少し静かに。
でも、確かに。




