第4話 町内会バトル・開幕
会場は、町内会館。
畳。パイプ椅子。
冷めたお茶。
そしてピリついた空気。
壇上に立つ男。
黒川会長
町内会会長。
声が大きく、肩書きが多く、責任は曖昧。
黒川
「本日の議題は ONI FAMILY MEDICAL CENTERの是非についてだ!」
ざわっ。
黒川
「鬼族に! この町の医療を任せられるか!」
どん、と机を叩く。
ミツ婆
「任せられないなら、腰返しておくれ」
ケンジ
「俺、もう一回倒れろってことですか?」
黒川
「感情論はやめなさい!」
そこへ。
白衣のまま、腕組み。
さっちゃん先生
角、隠してない。
目、真っ直ぐ。
さっちゃん
「じゃあ聞きます」
一歩、前へ。
さっちゃん
「この町で――
“治らなかった人”いますか?」
沈黙。
空調の音だけが鳴る。
黒川
「そ、それは……」
ミツ婆
「ないね」
ケンジ
「俺、生きてます」
白石副会長
「腰も曲がらん」
一人、また一人。
ガルド級の町民たち
(声デカ・体ゴツ)
が、無言で頷く。
ごう……と空気が動く。
黒川
「だが!
町内会費を払わない診療所など!」
さっちゃん
「払ってます」
黒川
「え?」
さっちゃん
「書類、出しました」
エリオット(後方)
「三ヶ月前に」
カグヤ
「領収書も」
焔丸
「規則上、問題ありません」
四方八方から正論。
黒川
「……無料診療など続くはずがない!」
さっちゃん
「続いてます」
黒川
「将来はどうする!」
さっちゃん
「その時は、相談します」
黒川
「鬼は信用できん!」
さっちゃん
「……鬼ですけど、母です」
会場、しん……。
さっちゃん
「子どもが熱出したら、
種族で選びます?」
誰も答えない。
さっちゃん
「痛い時、
肩書き見ます?」
沈黙が、味方になる。
黒川
「……っ」
会長、言葉に詰まる。
その時。
ミツ婆
「会長さん」
黒川
「な、なんだ」
ミツ婆
「先生に診てもらってない人ほど、
よく喋るねぇ」
ドッ。
笑い。
黒川
「……本日の議題は以上だ!」
早口。
逃げるように閉会。
外。
夕暮れ。
町民たちが、さっちゃんに頭を下げる。
さっちゃん
「いえいえ、私は医者ですから」
ケンジ
「鬼医者だけどな!」
さっちゃん
「こら!」
笑い声。
その陰で。
黒川、歯を噛み締める。
黒川
「……まだ終わらんぞ」
本気の敵は、ここからだった。




