第2話 無料診療は怪しい?
ONI FAMILY MEDICAL CENTER 開業三日目。
診察室はまだ空きが多い。
理由は、はっきりしていた。
町内会長・黒川源三。
七十代、眉毛が常に怒っている男。
町内会館で、今日も声が響いていた。
黒川会長
「いいですか皆さん!
“無料診療”など続くわけがない!!
最初は優しく、後から魂を取る!
それが鬼というものです!!」
町民
「た、たしかに……」
「でも昨日ケンジ助けてもらってたよね?」
「祟りの前兆かも……」
完全に鬼医者危険説が流布されていた。
その噂は、当然さっちゃんの耳にも入る。
さっちゃん
「……はぁ」
エリオット
「気にしなくていいですよ。
偏見はデータではありません」
さっちゃん
「……でもね、
放っておくと“町内会決議”とかされるのよ」
角が、ぴくっと動く。
その夜。
ドン!!
ONI FAMILY MEDICAL CENTER の扉が、
半分しか開かない。
呻き声。
白石
「い、いだだだだだ……!!」
担ぎ込まれてきたのは、
町内会副会長・白石清吉。
昼間、黒川会長の横で
「そうだそうだ」と頷いていた男である。
エリオット
「……ギックリ腰ですね」
白石
「言わないで!!
名前を聞くだけで痛い!!」
さっちゃん、腕を組む。
さっちゃん
「……あの」
白石
「ひぃっ!?」
さっちゃん
「反対派ですよね?」
白石
「そ、それとこれとは別!!
腰は思想と関係ない!!
信条は硬くても腰は脆いんだ!!」
即答だった。
さっちゃん
「……ふふ」
一瞬、笑う。
そして、真顔。
さっちゃん
「じゃあ、治すわ。
反対でも、文句言っても、
痛いなら来なさい」
白石
「……」
白石の目が、潤む。
治癒開始。
鬼族式・腰部魔力調整。
ボキッ
(※実際には鳴ってない)
白石
「……あ?」
白石
「……立てる?」
白石
「……立ててる!?」
三秒後。
白石
「立ててるぅぅぅ!!!」
その場で正座。
白石
「すみませんでした!!
無料とか怪しいとか!!
鬼とか関係ないです!!
あなたは……」
さっちゃん
「医者です」
白石
「医者です……!」
翌朝。
町内会掲示板。
【重要】
昨日、副会長の腰を救ったのは
例の鬼医者です。
腰は思想を超えます。
——白石
黒川会長
「白石ぃぃぃ!!!」
その日の診療所。
患者、少し増える。
ミツ婆
「……腰、診てくれるかい?」
さっちゃん
「倒れる前に来なさい!!!」
声は怖い。
手は、優しい。
鬼医者の評判は、
また一つ、町に根を下ろした。
——偏見よりも先に、
痛みは、正直だった。




