第10話(最終話) それぞれの立つ場所
進路決定提出日。
教室は、いつもより静かだった。
紙を置く音だけが、やけに大きく響く。
アカネは、迷いなく記入する。
第一志望:前線治癒医
ペン先が止まらない。
(怖い。
でも、逃げない)
かつて母が立っていた場所。
血と痛みと祈りが集まる最前線。
アカネは小さく息を吸い、心の中で言う。
「私は、誰かを守る」
少し離れた席で、ソラも用紙を見ていた。
第一志望:魔力制御・補助研究
指が震えない。
(前に立たなくていい。
でも、後ろに逃げるわけでもない)
暴走を防ぐ。
場を安定させる。
誰かが全力で動ける“土台”になる。
ソラは静かに書く。
「俺は、その場を守る」
提出後。
さっちゃんは、二人の用紙を並べて見る。
別々の道。
別々の役割。
でも。どちらも、医療者。
さっちゃんは何も言わず、ただ一度だけ頷いた。
それが、合格の合図だった。
アカネ=ハワード=オニ
前線治癒医 志望
「私は、誰かを守る」
それは英雄願望でも、義務感でもない。
“傷のすぐそばに立てる人間でいたい”という、静かな覚悟だった。
ソラ=ハワード=オニ
制御・補助研究 志望
「俺は、その場を守る」
誰かが動けるように。
誰かが倒れないように。
“戦わない選択”を選んだ決断。
クロウ=ベルフェン
闇属性・前線補助治癒
「前に出る奴が眩しいなら、
影で支えるのが俺の役だろ」
口は悪いが、アカネの名前を見て一瞬だけ目を伏せた。
ミナ=ルミナール
光属性・後方サポート
「怖いけど……
“怖い”って言える場所で働きたい」
ソラの進路を見て、ほっと息をつく。
ガルド=バイソン
災害レスキュー班
「でかい声しか出ねぇけどよ!
助け呼ぶなら俺だろ!!」
ゴウエン教官に拳を向けられ、涙目で敬礼。
エルナ=フェイリス
精神治癒・カウンセリング
「傷は見えない方が、 深いこともあるから」
ベラと並んで、静かに名前を確認する。
トウマ
一般医療・地域診療
「鬼と天才に囲まれた結果、
胃は壊れたけど覚悟は決まった」
ユウトと一緒に、苦笑い。
リオ=アークライト
医療情報分析・制御支援
「誰かの“正解”を支えるのが、
一番効率がいい」
ソラと目が合い、無言でうなずく。
ナズナ=クロウリー
解呪・薬理専門
「無茶をする人間は、
止める係が必要だから」
アカネを見て、ほんの一瞬だけ笑った。
焔丸
「……全員、合格だ」
その声は、15年前よりずっと柔らかかった。
カグヤ
「選択は合理的。
だから、もう文句はない」
蒼井教授
「いい世代だね。
“才能”より“関係性”を選べる」
さっちゃん先生
何も言わず、ただ黒板に書く。
帰り道。夕焼け。
校舎を見上げる双子。
アカネ
「一緒じゃなくて、ごめん」
ソラ
「一緒じゃないから、双子だろ」
風が吹く。
角が、同時にほんのり光る。
黒板に残された文字。
『癒す者は、一人じゃない』
教室には、もう誰もいない。
でも確かに、
“未来へ向かう足音”だけが残っていた。
遠くから、さっちゃんが二人を見ている。
エリオットが隣で言う。
「立派だね」
さっちゃんは、鼻をすする。
「……当たり前よ」
「私の子だもの」
でも、その角は少し揺れていた。
癒す者は、役割を選ぶ。
でも、想いは同じ場所に帰る。
『さっちゃん先生の双子物語 アカネとソラ 』
ー完ー
先生
さっちゃん先生
魔界医療看護専門学校・元鬼教師/
現・ONI FAMILY MEDICAL CENTER 所長
鬼族最強クラスの治癒師。厳しくて泣き虫。
エリオット=ハワード
人間の医療研究者/魔界医療顧問
理論派・冷静沈着。家庭ではややポンコツ。
蒼井教授
魔界大学・外部医療顧問
氷系治癒理論の第一人者。相変わらず人気。
カグヤ=ナースロッド
元生徒 → 現・実技教官
現実主義の塊。恋愛と心霊は今も否定派。
焔丸
元クラス委員長 → 現・規律担当教官
真面目すぎるが、学生からの信頼は厚い。
生徒
アカネ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/治癒+感情共鳴型
内省型・責任感の塊。無茶を自覚していない。
ソラ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/魔力制御・補助特化
明るいムードメーカー。姉優先主義。
クラスメイト
クロウ=ベルフェン
闇属性治癒志望。口が悪いが面倒見がいい。
ミナ=ルミナール
光属性サポート系。成績優秀だが極度の緊張症。
ガルド=バイソン
鬼族。レスキュー志望。声がでかい。
エルナ=フェイリス
妖精族。精神治癒系。空気を読む達人。
トウマ
人間。一般医療枠。
「鬼の家系」に囲まれて毎日胃痛。




