第9話 選択と覚悟
進路適性評価室。
白い机。
三つの椅子。
壁には、将来進路の魔法陣チャート。
アカネとソラは、並んで座っているが、
今日は手を繋いでいない。
評価結果
カグヤが資料を置く。
「結果は、もう出てる」
焔丸が続ける。
「ただし、同じ道ではない」
紙に浮かぶ文字。
アカネ=ハワード=オニ
・前線治癒適性:極めて高
・指導・教育適性:同等に高
ソラ=ハワード=オニ
・補助制御:特級
・魔力制御理論・研究適性:特級
蒼井教授が淡々と告げる。
「才能が、分かれた」
アカネは紙を見つめたまま動かない。
前線
命の最前線。
母の背中がある場所。
指導
守る側を育てる立場。
責任の重さ。
(どっちも、怖い)
心の奥で声がする。
「どちらも中途半端なんじゃない?」
アカネ。
「……私、どっちもやりたいです」
即答だった。
でも、さっちゃんは眉を寄せる。
一方、ソラは苦笑する。
「補助か、研究か……」
現場に立てば、
誰かの後ろ。
研究に行けば、
前には立たない。
(また、後ろ?)
ソラ。
「……前に出たい気もするし」
「でも、俺が暴れると現場が壊れる」
自嘲気味に笑う。
全員の視線が、
さっちゃんに集まる。
母なら、教師なら、所長なら
答えを言える立場。
でも、さっちゃんは腕を組み、言う。
「……私は、決めない」
空気が止まる。
「これは」
「あなたたちの人生」
一拍。
「医療者はね」
「選ばれる側じゃなく、選ぶ側になる覚悟が必要なの」
アカネの喉が鳴る。
ソラの背筋が伸びる。
さっちゃんは続ける。
「前線は、逃げられない」
「指導は、誤魔化せない」
「補助は、評価されにくい」
「研究は、孤独よ」
そして、はっきり言う。
「どれを選んでも」
「後悔する日が来る」
沈黙。
アカネ、拳を握る。
「……それでも?」
さっちゃん。
「それでも、選びなさい」
ソラ。
「間違えたら?」
さっちゃんは、少しだけ微笑う。
「間違えていい」
「戻れないだけ」
それが、
母からの最大の優しさだった。
帰り道
夕暮れ。
並んで歩くが、
距離はまだある。
アカネ。
「……私さ」
「母さんみたいになりたいって思ってた」
ソラ。
「俺は」
「姉ちゃんを支えればいいって思ってた」
二人、立ち止まる。
アカネ。
「でも、それ」
「逃げだったのかも」
ソラ。
「うん」
でも、否定しない。
寮の前。
それぞれの扉の前で。
アカネ。
「……先に決めないよ」
ソラ。
「俺も」
同時に言う。
「自分で選ぶ」
ドアが、別々に閉まる。
さっちゃんは夜、研究所で独り。
エリオットが言う。
「厳しすぎた?」
さっちゃん。
「……あの子たちが」
「私を超えるには、必要」
角は、揺れている。




