第7話 離れても、双子
実習発表の日。
カグヤが名簿を見て、淡々と告げる。
「今回は別々の実習先だ」
ざわつく教室。
「アカネ・ハワード=オニ」
「魔界医療センターB棟、重症患者チーム」
「ソラ・ハワード=オニ」
「魔界救急支援区画、判断補助なし班」
一瞬、二人の視線が交わる。
焔丸が補足する。
「規律上、意図的な分離実習である」
蒼井教授は静かに言う。
「“一人で立てるか”を診る」
アカネ側
医療センターB棟。
患者は高齢の魔族。
魔力循環が不安定で、
治癒者が無理をすれば共倒れになる症例。
アカネは反射的に前へ出る。
「私が」
だが、隣の先輩治癒師が手を伸ばす。
「君は後ろ。補助に回って」
「……え?」
戸惑うアカネ。
「支える側も、仕事だよ」
穏やかな声。
治癒が始まる。
アカネは“任されない”位置で、
必死に周囲を観察する。
(……こんなに、頼もしいんだ)
(私がいなくても、現場は回る)
胸の奥が、少し痛む。
自分は、
“必要とされたい”だけだったのかもしれない。
ソラ側
救急支援区画。
ガルドが吠える。
「負傷者! 魔力外傷二名!」
ミナは真っ青。
「わ、私……!」
クロウが舌打ちする。
「チッ、時間ねぇぞ!」
エルナが即座に言う。
「精神波、荒れてる!」
全員が、ソラを見る。
「……判断、お願い」
ソラは一瞬、息を詰める。
(姉ちゃんがいない)
(俺が――決める)
「ガルド、物理固定!」
「ミナ、光属性は抑制寄り!」
「クロウ、闇で痛覚遮断!」
声が、通る。
現場が動く。
治療は成功。
だが
誰も、声を上げない。
「……終わり、ですね」
ミナが小さく言う。
ソラは、笑えなかった。
(できたのに)
(誰も、見てない)
離れた場所。
さっちゃん先生は、
二つのモニターを同時に見ている。
「……アカネ、後ろにいる」
小さく呟く。
エリオットが頷く。
「初めてだね」
蒼井教授。
「そして、ソラは前にいる」
カグヤは腕を組む。
「どっちも、必要な経験だ」
焔丸が静かに締める。
「離れても、規律は繋がっている」
夕方
実習終了。
廊下ですれ違う双子。
言葉は、出ない。
でも。
アカネは思う。
(支えられるのも、医療なんだ)
ソラは思う。
(前に出るのは、怖い)
視線が合う。
ほんの一瞬、
二人の角が、同時に淡く光る。
離れていても
共鳴は、消えていなかった。
先生
さっちゃん先生
魔界医療看護専門学校・元鬼教師/
現・ONI FAMILY MEDICAL CENTER 所長
鬼族最強クラスの治癒師。厳しくて泣き虫。
エリオット=ハワード
人間の医療研究者/魔界医療顧問
理論派・冷静沈着。家庭ではややポンコツ。
蒼井教授
魔界大学・外部医療顧問
氷系治癒理論の第一人者。相変わらず人気。
カグヤ=ナースロッド
元生徒 → 現・実技教官
現実主義の塊。恋愛と心霊は今も否定派。
焔丸
元クラス委員長 → 現・規律担当教官
真面目すぎるが、学生からの信頼は厚い。
生徒
アカネ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/治癒+感情共鳴型
内省型・責任感の塊。無茶を自覚していない。
ソラ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/魔力制御・補助特化
明るいムードメーカー。姉優先主義。
クラスメイト
クロウ=ベルフェン
闇属性治癒志望。口が悪いが面倒見がいい。
ミナ=ルミナール
光属性サポート系。成績優秀だが極度の緊張症。
ガルド=バイソン
鬼族。レスキュー志望。声がでかい。
エルナ=フェイリス
妖精族。精神治癒系。空気を読む達人。
トウマ
人間。一般医療枠。
「鬼の家系」に囲まれて毎日胃痛。




