第6話 双子の喧嘩
実技演習室。
今日は複数属性連携による応急治癒実習。
教官はカグヤ、規律確認に焔丸、外部監修として蒼井教授も見学している。
「はい、今回はチーム分けだ」
カグヤが淡々と言う。
双子は、同じ班。
クロウ、ミナ、ガルド、エルナ、トウマも加わる
問題なく見えた編成だった。
模擬患者役のゴーレムが、
想定以上の魔力暴走を起こす。
「え、これ設定おかしくない!?」
トウマが青ざめる。
「黙ってろ、人間!」
ガルドが前に出るが、
「待って、突っ込まないで!」
ミナの声は震えている。
その瞬間
アカネが一歩、前に出た。
「私が抑える」
「姉ちゃん、待て!」
ソラが言いかける。
だが、アカネは止まらない。
治癒魔力、全開。
感情共鳴が走り、
ゴーレムの暴走は一瞬で沈静化する。
だが
アカネの足元が揺らぐ。
「アカネ!」
エルナが叫ぶ。
ソラは、一歩遅れた。
(……大丈夫だ)
(いつも、姉ちゃんは立ち続ける)
その“いつも”が、
今回は致命的だった。
魔力が、乱れる。
双子の共鳴が噛み合わず、
治癒場が不安定に跳ねる。
「うわっ!?」
クロウが後退する。
「空気、変!」
ガルドが声を張る。
「精神波が乱れてる……!」
エルナが即座に補助に入る。
蒼井教授が低く言う。
「中止だ」
焔丸が鐘を鳴らす。
「全員、距離を取れ!」
カグヤが即断する。
「実習、打ち切り!」
控室。
アカネは、歯を食いしばっていた。
「……なんで止めないの!」
ソラが、はっとする。
「え?」
「危なかったでしょ!?」
「いつもなら、あんたが止めるじゃない!」
ソラの中で、何かが切れる。
「いつも俺は後ろだろ!!」
空気が凍る。
「姉ちゃんが前に出て、」
「俺は支えて、調整して、黙ってる!」
「それでいいって、」
「誰が決めたんだよ!」
アカネは言葉を失う。
魔力が、再びざわつく。
「……やべ」
クロウが小さく呟く。
「初めてじゃない?」
ミナが不安そうに言う。
「双子が、喧嘩……」
ガルドは動けない。
トウマは胃を押さえている。
「これ、家庭問題だよね……?」
エルナだけが、静かに目を伏せた。
「……必要な衝突かも」
廊下の向こう。
さっちゃん先生は、拳を握っていた。
「止める?」
エリオットが小声で聞く。
「……今は、駄目」
さっちゃんは、鬼教師の目をしている。
蒼井教授が言う。
「双子は“一つ”でいる限り、壊れやすい」
焔丸が頷く。
「これは規律違反ではない。成長だ」
カグヤは腕を組んだまま。
「ようやく、対等になったか」
沈黙の中で、
アカネは初めて気づく。
止められなかったのではない。
止めなかったのだ。
ソラは、初めて叫んだ。
後ろではなく、前に。
実習室の外で、
共鳴は、ゆっくりと静まっていく。
だが、
双子の関係は、もう元には戻らない。
先生
さっちゃん先生
魔界医療看護専門学校・元鬼教師/
現・ONI FAMILY MEDICAL CENTER 所長
鬼族最強クラスの治癒師。厳しくて泣き虫。
エリオット=ハワード
人間の医療研究者/魔界医療顧問
理論派・冷静沈着。家庭ではややポンコツ。
蒼井教授
魔界大学・外部医療顧問
氷系治癒理論の第一人者。相変わらず人気。
カグヤ=ナースロッド
元生徒 → 現・実技教官
現実主義の塊。恋愛と心霊は今も否定派。
焔丸
元クラス委員長 → 現・規律担当教官
真面目すぎるが、学生からの信頼は厚い。
生徒
アカネ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/治癒+感情共鳴型
内省型・責任感の塊。無茶を自覚していない。
ソラ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/魔力制御・補助特化
明るいムードメーカー。姉優先主義。
クラスメイト
クロウ=ベルフェン
闇属性治癒志望。口が悪いが面倒見がいい。
ミナ=ルミナール
光属性サポート系。成績優秀だが極度の緊張症。
ガルド=バイソン
鬼族。レスキュー志望。声がでかい。
エルナ=フェイリス
妖精族。精神治癒系。空気を読む達人。
トウマ
人間。一般医療枠。
「鬼の家系」に囲まれて毎日胃痛。




