第4話 双子なのに、違う
実技棟・治癒応用演習室。
黒板には大きく書かれている。
《本日の課題:個別対応・ペア実習》
カグヤ教官が淡々と告げた。
「本日は、双子は同じ班にしません」
教室が、ざわつく。
アカネとソラは同時に顔を上げた。
「え……?」
「え?」
焔丸教官が補足する。
「医療者は“誰とでも組める”必要がある。
家族である前に、個だ」
アカネは、背筋を正した。
(大丈夫。
私は一人でも、ちゃんとできる)
ソラは、いつものように軽く笑う。
「ま、なんとかなるっしょ」
ペア分け
アカネ:ミナ
ソラ:クロウ
ガルドはエルナと組み、トウマは別班。
アカネは、開始直後から前に出すぎた。
「ミナ、そこ違う」
「私がやる」
「次の処置、急いで」
ミナは、顔を真っ青にする。
「ご、ごめん……!」
患者役の魔法人形の魔力が、不安定になる。
アカネは焦る。
(私が、引っ張らなきゃ)
その結果――
処置は正確だが、連携評価が低い。
一方。
ソラの班。
クロウがぼやく。
「お前、もっと前出ろよ」
「俺がやるからさ」
ソラは、補助に徹する。
魔力制御は完璧。
事故は起きない。
だが――
「判断が消極的」
「安全すぎる」
評価表には、そう書かれた。
実習後
アカネは、納得がいかない。
「私、処置は全部成功しました」
焔丸教官は、静かに答える。
「だが、ミナは途中から“手を出せなかった”」
カグヤが続ける。
「優秀だが、独りで完結しすぎる」
アカネは、唇を噛んだ。
(だって……)
一方、ソラ。
「失敗ゼロなのに、評価低いってどういうことですか」
クロウが横で舌打ちする。
「お前、俺信用してなかっただろ」
ソラは、言葉に詰まる。
(守ることしか、考えてなかった)
教官室前。
双子が並んで立つ。
焔丸が、二人を見比べて言った。
「君たちは、揃わなくても医療者だ」
沈黙。
「双子であることは、強みだ」
「だが、それに縛られてはいけない」
カグヤが、静かに締める。
「同じである必要はない」
夜、寮の廊下
アカネが、ぽつりと言う。
「……私、やりすぎた」
ソラは、少し間を置いて答える。
「俺、逃げてた」
二人は、しばらく黙る。
同じ顔。
同じ声。
でも。
アカネは前を向く人間で、
ソラは支えることに慣れすぎた人間だった。
「ねえ、ソラ」
「ん?」
「次は……」
アカネは、言葉を探す。
「お互い、違うやり方でやろう」
ソラは、少し驚いてから笑った。
「それ、いいね」
廊下の明かりが、二人を分けて照らしていた。
先生
さっちゃん先生
魔界医療看護専門学校・元鬼教師/
現・ONI FAMILY MEDICAL CENTER 所長
鬼族最強クラスの治癒師。厳しくて泣き虫。
エリオット=ハワード
人間の医療研究者/魔界医療顧問
理論派・冷静沈着。家庭ではややポンコツ。
蒼井教授
魔界大学・外部医療顧問
氷系治癒理論の第一人者。相変わらず人気。
カグヤ=ナースロッド
元生徒 → 現・実技教官
現実主義の塊。恋愛と心霊は今も否定派。
焔丸
元クラス委員長 → 現・規律担当教官
真面目すぎるが、学生からの信頼は厚い。
生徒
アカネ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/治癒+感情共鳴型
内省型・責任感の塊。無茶を自覚していない。
ソラ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/魔力制御・補助特化
明るいムードメーカー。姉優先主義。
クラスメイト
クロウ=ベルフェン
闇属性治癒志望。口が悪いが面倒見がいい。
ミナ=ルミナール
光属性サポート系。成績優秀だが極度の緊張症。
ガルド=バイソン
鬼族。レスキュー志望。声がでかい。
エルナ=フェイリス
妖精族。精神治癒系。空気を読む達人。
トウマ
人間。一般医療枠。
「鬼の家系」に囲まれて毎日胃痛。




