第3話 支える側の限界
実技棟・応急対応演習室。
「では次。模擬災害、開始」
焔丸教官の号令と同時に、空間が歪んだ。
床が崩れ、瓦礫。
患者役の魔法人形が三体、同時にダウン。
「うおおお!?派手すぎだろ!!」
ガルドが叫ぶ。
「声でかい!患者驚かせるな!」
クロウが即ツッコミ。
「え、えっと……優先順位は……」
ミナは紙を握りしめ、固まる。
エルナは一瞬、空気を読むように目を伏せた。
「……怪我人、パニック起こしてる」
その瞬間。
二次崩落。
天井の一部が、ソラの頭上に落ちてきた。
「――危ない!」
アカネが前に出ようとする。
だが。
ソラは一歩、前に出た。
「姉さん、止まって!」
声が、いつもより低い。
ソラは手を広げ、魔力を展開する。
補助用の制御陣。
いつも“誰かの後ろ”で使ってきた魔法。
だが今回は、誰の指示もない。
「瓦礫、落下まで三秒」
トウマが叫ぶ。
「ガルド!支えろ!」
「クロウ、負傷者固定!」
「ミナ、回復準備!今は触るな!」
自然に、言葉が出た。
ガルド
「お、おう!!」
クロウ
「……了解」
ミナ
「は、はいっ!」
エルナは、静かに頷く。
「……今、いい判断」
瓦礫は、ソラの制御魔力に阻まれ、ゆっくりと停止した。
震える指。
汗。
でも、崩れない。
「今だ、搬送!」
全員が動いた。
数分後。
模擬災害、終了。
焔丸
「……よし。次の班」
それだけだった。
誰も、ソラを見ない。
ガルドはアカネの方を見て、
「委員長の妹、すげーな!」と笑う。
クロウは肩をすくめる。
「まあ、補助上手かったな」
それだけ。
ソラは、立ったまま動けなかった。
(……俺、今)
(ちゃんと判断したよな?)
(前に、出たよな?)
でも。
誰も、褒めなかった。
教室の隅。
ソラは窓を見つめる。
エルナが、そっと隣に来た。
「……悔しい?」
ソラは、少しだけ笑った。
「うん。ちょっと」
「いつも“支える側”だもんね」
ソラは、拳を握る。
「俺さ……」
一瞬、言葉に詰まってから。
「前に出たいって、思っちゃった」
エルナは驚かず、微笑った。
「いいと思うよ」
その時。
クロウが、後ろからぼそっと言った。
「……さっきの判断」
「クソ早かったぞ」
ソラは、振り返る。
クロウは目を逸らしたまま、続ける。
「俺、あれ真似できねーわ」
それだけ言って、去った。
ソラは、しばらく立ち尽くしてから。
小さく息を吐いた。
(……次は)
(ちゃんと、前に出よう)
その背中を、アカネが遠くから見ていた。
先生
さっちゃん先生
魔界医療看護専門学校・元鬼教師/
現・ONI FAMILY MEDICAL CENTER 所長
鬼族最強クラスの治癒師。厳しくて泣き虫。
エリオット=ハワード
人間の医療研究者/魔界医療顧問
理論派・冷静沈着。家庭ではややポンコツ。
蒼井教授
魔界大学・外部医療顧問
氷系治癒理論の第一人者。相変わらず人気。
カグヤ=ナースロッド
元生徒 → 現・実技教官
現実主義の塊。恋愛と心霊は今も否定派。
焔丸
元クラス委員長 → 現・規律担当教官
真面目すぎるが、学生からの信頼は厚い。
生徒
アカネ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/治癒+感情共鳴型
内省型・責任感の塊。無茶を自覚していない。
ソラ=ハワード=オニ(15歳)
鬼×人ハーフ/魔力制御・補助特化
明るいムードメーカー。姉優先主義。
クラスメイト
クロウ=ベルフェン
闇属性治癒志望。口が悪いが面倒見がいい。
ミナ=ルミナール
光属性サポート系。成績優秀だが極度の緊張症。
ガルド=バイソン
鬼族。レスキュー志望。声がでかい。
エルナ=フェイリス
妖精族。精神治癒系。空気を読む達人。
トウマ
人間。一般医療枠。
「鬼の家系」に囲まれて毎日胃痛。




