エピローグ 癒す者は、癒されて強くなる
春。
魔界医療看護専門学校。
かつて怒号が飛び、命の重さを叩き込んだ校舎に、
久しぶりにその鬼教師が戻ってきた。
白衣。
少し柔らかくなった表情。
そして――
角は、以前よりほんの少し丸い。
さっちゃん、育休明け。
だが――
彼女は教壇には立たなかった。
旧講義室を改装した一室。
黒板に、力強い文字。
ONI FAMILY MEDICAL CENTER
生徒ではなく、
患者でもなく、
家族のための医療拠点。
・出産
・育児
・介護
・種族差医療
・心のケア
すべてを「現場」から切り離さない場所。
焔丸(成長した顔で)
「……先生らしいですね」
カグヤ
「合理的です。 でも……温かい」
ミミ
「赤ちゃんの泣き声が聞こえる病院、
好きです……」
部屋の隅。
小さなベビーベッド。
双子はすやすや眠っている。
角は
まだ小さくて、柔らかい。
さっちゃん
「この子たちさ……
私より、ずっと強いと思う」
エリオット
「どうして?」
さっちゃん
「守られることを、
ちゃんと受け入れられるから」
夕方。
人が引いた後のセンター。
窓から差し込む光。
エリオット
「……後悔は?」
さっちゃんは、少し考えてから。
ゆっくりと首を振る。
さっちゃん
「一つもない」
一拍。
さっちゃん
「厳しくて、
泣いて、
怒って、
恋して、
産んで……」
角に手を当てる。
さっちゃん
「騒がしい人生だけど これ、全部“私の看護”だから」
エリオットが、そっと手を伸ばす。
重ねる。
指先はもう、迷わない。
エリオット
「癒す者は、
癒されてもいい」
さっちゃん
「……ううん」
微笑んで。
さっちゃん
「癒されたから、
また強くなれる」
黒板の文字が、夕焼けに照らされる。
ONI FAMILY MEDICAL CENTER
その下に、
誰かがこっそり書いた落書き。
「さっちゃん先生
世界一うるさくて
世界一優しい」
さっちゃん
「……誰よ、これ」
エリオット
「心当たりが多すぎますね」
笑い声。
双子の寝息。
鬼と人と、
その間に生まれた“未来”。
癒す者は、癒されて強くなる。
物語は、ここで終わる。
そして
静かに、続いていく。
『 鬼教師さっちゃんのドタバタ新婚医療日誌 〜結婚・研究・双子出産、全部フルコースです〜 』
ー完ー




