第十一話 双子、最初の夜
魔界産科区画・深夜。
時計の針は
午前2時37分。
静寂。
……の、はずだった。
オギャアアアア!!
オギャアアアア!!
完璧なユニゾン。
さっちゃん
「同時に!?
いや、交互でいいから!!」
エリオットは冷静に時計を見る。
エリオット
「泣き始めから、正確に0.2秒差。
同期しています」
さっちゃん
「観測しないであやして!!」
次の瞬間。
室内の魔力灯が
ピカッ、ピカッと明滅。
揺れるカーテン。
浮き始める哺乳瓶。
さっちゃん
「ちょ、ちょっと待って!?
赤ちゃんって浮かすの!?」
エリオット
「鬼族双子の共鳴ですね。
周囲魔力を引き込み――」
さっちゃん
「解説いいから止めて!!」
抱っこ。
授乳。
子守歌。
鬼族伝統の低音詠唱ララバイ。
……全部、無効。
双子
「「オギャ!!」」
さっちゃん
「なんで!?
さっきの分娩よりキツいんだけど!!」
エリオット
「睡眠導入率、0%です」
さっちゃん
「数字にしないで!!」
突然。
警告音。
《体温上昇:通常鬼族乳児比+15%》
雷士(モニター越し)
「せ、先生!!
双子、同時に発熱です!!」
ユミカ
「赤く光ってる……
かわいい……?」
さっちゃん
「かわいくない!!
燃えてる!?」
角から、微火花。
ベビーベッドの縁が焦げる。
エリオット
「……これは、
極めて貴重なデータですね」
端末を取り出す。
エリオット
「論文タイトル案――
『鬼族双生児における魔力共鳴性夜間発熱現象』」
その瞬間。
さっちゃん
「ならない!!!!!」
病棟に響く、
鬼のツッコミ。
角、最大角度。
エリオットの白衣、
半焼。
エリオット
「……却下ですね」
夜明け
午前5時12分。
ようやく。
双子
「「……すー……」」
眠った。
完全に、同時。
ソファに崩れ落ちる二人。
さっちゃん
「……なにこれ……
戦争……?」
エリオット
「ええ。
しかし――」
小さく微笑む。
エリオット
「世界で一番、尊い戦場です」
さっちゃん
「……言うようになったじゃない」
角、少し丸くなる。
窓の外、朝日。
双子の寝息と、
くたくたの新米夫婦。
鬼族双子育児、初日。
まだ誰も知らない。
これが
ほんの序章だということを。




