第七話 不安になる夜
夜。
静まり返った自宅の寝室。
窓の外には、月明かりが静かに漏れている。
さっちゃんは
いつも以上に眠れない夜を迎えていた。
布団の中、そっとお腹に手を当てる。
さっちゃん
「……ちゃんと、母親になれるかな」
声は小さい。
でも、そこには真剣な不安があった。
エリオットは隣で眠っていたが、
さっちゃんの声に気づき
静かに体を起こす。
エリオット
「……どうした?」
さっちゃん
「なんか……急に不安で」
少し俯く。
さっちゃん
「出産リスクとか……
種族違いのこととか……
私は……できるのかなって」
エリオットは
すぐにそっと
さっちゃんの手を握る。
眠れぬ夜の静かな会話
エリオット
「……さっちゃん」
少し間を置いてからゆっくり言う。
エリオット
「あなたは、
もう何百人も救ってきた」
さっちゃん
「……え?」
エリオット
「患者が、
不安で泣いている時も
あなたはそばにいた」
エリオット
「涙を拭い、痛みを和らげ
何度も命を守ってきた」
エリオット
「“母になる”ってことは 初めてかもしれない。
けれど――」
さっちゃんは
小さく目を閉じたまま
じっと聞いている。
エリオット
「あなたは既に、人の痛みを理解して
抱きしめられる人だ」
静かな声。
決して大きくはないが
真っ直ぐ伝わる言葉。
さっちゃん
「……でも、 お腹の中の子たちを
守れるかなって……」
エリオット
「守れるよ」
さっちゃん
「……私、 初めてのことが多すぎて……
出産も育児も……」
エリオット
「それは誰だって同じだよ」
エリオットは優しく笑う。
エリオット
「不安になるのは当然だ。
誰だって怖いんだ」
エリオット
「でもね、
不安な気持ちを
抱えたままでいいんだよ」
さっちゃん
「……?」
エリオット
「不安になるのは愛があるから。
あなたが大切に思っているから」
エリオット
「そして――
誰よりも強いのは、
その不安を抱えたまま
前を向こうとしているあなただよ」
夜明け前
しばらく二人は
静かに寄り添い合った。
さっちゃんの目には
ほんの少しだけ涙が光っていた。
さっちゃん
「……ありがとう」
小さな声でも、真っ直ぐだった。
エリオット
「僕も不安だよ」
少し笑って。
エリオット
「でも、君となら
大丈夫だと思う」
さっちゃん
「……うん」
深い夜は
まだ続くけれど。
不安は完全には消えなくても
心に灯った優しい光は
確かに熱を持っていた。
窓の外が
少し白んでくる。
ゆっくりと
朝が近づく音がした。
優しさと不安は共存する。
それでも、二人で進む。




