第四話 鬼教師の妊婦は最強だが無敵ではない
朝の救命センター。
担架の音。
アラーム。
怒号。
そして。
さっちゃん、普通に立っている。
妊婦、現場に立つ
さっちゃん
「はいはい!
そこどいて!
鬼が通るわよ!」
看護師
「先生!妊娠中です!!」
さっちゃん
「だから?」
エリオット(背後から)
「だから、です」
さっちゃん
「……」
エリオット
「今日は書類業務のみです」
さっちゃん
「現場足りてないでしょ!」
エリオット
「代替人員は確保しました」
さっちゃん
「……弱音?」
エリオット
「医学です」
そのとき。
入口が開く。
ミミ
「せ、先生ーーっ!!」
マオ吉
「聞きましたよ妊娠!」
バルゴン
「無茶するって!」
さっちゃん
「……なんであんたたちが」
ジゾー丸(静かに)
「俺たち、
今は“現場側”です」
一瞬、空気が変わる。
ミミ、目を潤ませる。
「先生…… 前は……」
声が震える。
ミミ
「私たちが危ない時、
先生が必ず前に立ってくれました」
さっちゃん
「……」
ミミ
「でも今は……」
ぽろっと涙。
ミミ
「……赤ちゃんがいます」
さっちゃん
「……」
ジゾー丸が、一歩前に出る。
「……守られる側も、役目です」
さっちゃん
「……」
ジゾー丸
「俺たちは、
先生に守られてきました」
マオ吉
「今度は俺たちが前出ます!」
バルゴン
「鬼の妊婦が無敵だって?
違いますよ」
一拍。
バルゴン
「無敵なのは、ひとりじゃない時です」
さっちゃん、拳を握る。
震える。
……少しだけ。
さっちゃん
「……」
深呼吸。
そして。
さっちゃん
「……休むわ」
一同
「!!」
さっちゃん
「悔しいけど」
小さく笑う。
さっちゃん
「……初めて、
守られる側になる」
エリオット
「正解です」
さっちゃん
「……ドヤ顔やめなさい」
エリオット
「医学的勝利です」
その日の職員掲示板。
《さっちゃん先生 本日より“絶対安静(鬼基準)”》
注釈:
《鬼基準=重い物を持たない/怒鳴らない/角使用禁止》
さっちゃん(遠くから)
「最後のいらないわよ!!」
エリオット
「必要です」
廊下に笑い声が響く。
鬼教師の妊婦は最強。
でも。
ひとりで戦わなくてもいいことを、
ようやく知った。




