第三話 さっちゃん、妊娠に気づかない
魔界医療看護専門学校・職員室。
朝の空気が
異様に平和だった。
異変① 異常な魔力安定
ミネルバ先生が、さっちゃんの魔力測定器を見てフリーズする。
ミネルバ
「……ちょっと」
さっちゃん
「なによ。今コーヒー三杯目なんだけど」
ミネルバ
「魔力波形が、綺麗すぎる」
測定器表示。
《魔力安定率:99.9%》
ミネルバ
「これ、理論値よ?」
さっちゃん
「最近ストレス少ないの」
ミネルバ
「450年生きてて、
そんな時期あった?」
異変② 食欲増加
昼休み。
さっちゃんの前には
カレー三皿。
パン四つ。
デザート二種。
オニグレン(通りすがり)
「先生、食べっぷり俺よりいいっすね!」
さっちゃん
「うるさい!
午後も実習あるの!」
ミネルバ
「……さっき昼、食べてなかった?」
さっちゃん
「え?」
三秒沈黙。
さっちゃん
「……あ、これ二回目」
異変③ 角が丸くなる(重要)
その日の夕方。
エリオットがさっちゃんを見て、
ふと視線を止める。
エリオット
「……」
さっちゃん
「なに?」
エリオット
「角……」
さっちゃん
「角?」
鏡を渡される。
そこには。
いつも鋭利で威圧感MAXだった鬼の角が、
やや丸い。
さっちゃん
「……」
エリオット
「……」
さっちゃん
「……削った?」
エリオット
「削ってません」
さっちゃん
「寝てる間に?」
エリオット
「医療的にありえません」
エリオット、白衣のポケットから検査キットを出す。
さっちゃん
「なにそれ」
エリオット
「……検査、しましょう」
さっちゃん
「大げさよ。
ちょっと食欲増えて、
魔力安定して、
角が丸いだけ――」
エリオット
「全部、兆候です」
さっちゃん
「……何の?」
エリオット
「妊娠の」
沈黙。
三秒。
五秒。
十秒。
検査結果表示。
《妊娠:陽性》
《胎児反応:2》
エリオット
「……双子です」
さっちゃん
「……え?」
エリオット
「双子」
さっちゃん
「……」
ゆっくり椅子に座る。
さっちゃん
「……え?」
さっちゃん
「……私、今週」
指を折る。
「当直」
折る。
「12回……」
エリオット
「減らします」
さっちゃん
「実習……」
エリオット
「代行立てます」
さっちゃん
「角……丸くなるの……?」
エリオット
「鬼族の母体反応です」
さっちゃん
「……」
沈黙の後。
さっちゃん
「……じゃあ」
エリオット
「はい」
さっちゃん
「最近、眠いのも?」
エリオット
「はい」
さっちゃん
「情緒安定してるのも?」
エリオット
「はい」
さっちゃん
「食欲止まらないのも?」
エリオット
「はい」
さっちゃん
「……」
顔、真っ赤。
角、ほんのりピンク。
さっちゃん
「……私……」
小さく。
「……母になるの?」
エリオット
(尊死)
エリオット
「なります。
一緒に」
さっちゃん
「……」
少しだけ、笑う。
さっちゃん
「……じゃあ」
拳を握って。
「当直、半分にする」
エリオット
「それでも多いです」
数日後。
学校中に張り紙。
《さっちゃん先生
当分、物理制裁控えめ》
生徒一同
「???」
さっちゃん(遠くから)
「聞こえてるわよ!!」
角は丸いが、
声量は相変わらずMAXだった。
鬼教師、次は母になる。




