第二話 魔界式結婚式、死亡率3%
魔界中央・鬼族正式婚姻儀式場。
入口の看板。
※注意
本式典は耐久・精神・魔力試験を含みます
死亡率:3%(※昨年度実績)
エリオット
「……結婚式というより、
臨床試験の最終フェーズですね」
さっちゃん
「安心して。
鬼族基準では“安全寄り”だから」
エリオット
「比較対象は?」
さっちゃん
「鬼族の初デート」
エリオット
「それ、死亡率何%ですか」
さっちゃん
「測定不能」
第一関門:エリオットの母
そこに立っていたのは
エリオットの母・マリア。
白髪交じりの黒髪、
背筋はまっすぐ、
医師の眼差しそのもの。
マリア
「……あなたが、
息子の選んだ鬼族の方ですね」
さっちゃん
「はい!
鬼族・さっちゃんです!」
角がピンと立つ。
マリア
「……思ったより可愛い角」
さっちゃん
「ありがとうございます!!」
エリオット
「母さん、
今日は試すつもりで来ないって——」
マリア
「嘘よ」
即答。
マリア
「質問は三つ」
エリオット
「母さん!!」
マリア
「一つ目。
この子が怒った時、どうするの?」
エリオット
「抱きしめます」
即答。
マリア
「合格」
さっちゃん
「即!?」
マリア
「二つ目。
角が暴走したら?」
エリオット
「安全距離を確保し、
温かい飲み物と毛布を用意します」
マリア
「……慣れてるわね」
さっちゃん
「いつの間にそんなマニュアルを」
マリア
「三つ目」
少しだけ、声が柔らぐ。
マリア
「この子が
“看護も教師も辞めたい”と
言ったら?」
一瞬の沈黙。
エリオット
「一緒に悩みます。
答えは出させません。
出るまで隣にいます」
マリア
「……」
ふっと微笑む。
マリア
「合格よ」
さっちゃん
「……」
エリオット
「母さん……」
マリア
「息子をよろしくね」
さっちゃん
「はい!!
大切に壊します!!」
マリア
「壊さなくていい」
司会:焔丸
壇上に立つ焔丸。
背筋は直角。
焔丸
「これより!!
魔界式結婚儀式を開始する!!」
さっちゃん
「声量が戦闘開始!」
焔丸
「静粛に!!
新郎新婦、直立!!」
エリオット
「気をつけ、ですね」
焔丸
「誓いの言葉!!」
巻物、全長3メートル。
焔丸
「一、魔力枯渇時でも見捨てぬこと!!」
エリオット
「はい!!」
焔丸
「二、角が天井を破壊しても怒らぬこと!!」
エリオット
「はい!!」
さっちゃん
「前例あるのやめて!?」
焔丸
「三、
日常の小さな幸せを
疎かにせぬこと!!」
声が少し震える。
焔丸
「以上!!」
誓いのキス
後方席。
オニグレン
「もう無理……泣く……」
マオ吉
「俺も……」
バルゴン
「尊すぎる……」
卒業生、全員ハンカチ装備。
焔丸
「誓いのキスを!!」
さっちゃん
「ここで!?」
エリオット
「耐久試験・最終工程です」
さっちゃん
「聞いてない!!」
目が合う。
さっちゃん
「……やさしく……」
エリオット
「はい」
――ちゅ。
ド ゴ ォ ォ ン!!!!
魔力爆発。
光。
衝撃。
天井崩落。
式場、半壊。
数秒後
瓦礫の中。
焔丸
「……判定」
一拍。
焔丸
「合格!!」
オニグレン
「うおおおおお!!」
号泣。
オニグレン
「先生ぇぇ!!
お幸せにぃぃ!!」
マリア
「……丈夫な嫁ね」
エリオット
「医学の想定外です」
さっちゃん
「それ褒めてる!?」
こうして――
死亡者ゼロ(奇跡)
式場半壊(平常運転)
魔界式結婚式は、
無事(?)終了した。
マリア
「……いい式だったわ」
さっちゃん
「お義母さん……!」
マリア
「孫は急がなくていいから」
さっちゃん
「!?」
角、暴走。
エリオット
「母さん!!」




