死神レイヴ 死なない男を、面白がる者
死神の仕事は、忙しい。
今日も誰かが死に、
今日も誰かが生き延びる。
いや。
「は? なんだこれ」
レイヴは帳簿をめくり、眉をひそめる。
死者名簿に、
空白がある。
埋まらない。
消えもしない。
「……あー。はいはい。あのじいさんか」
笑う。
「死にもしないで、消えるとか。
反則だろ。イヒヒヒヒ」
アイゼンハワードの名は、
どこにもない。
死んだ記録も、
生きている記録も。
完全な“例外”。
運命干渉装置〈クロノ・ロック〉が止まった瞬間、
彼は未来線の外へ弾き出された。
それは死神ですら、
手を出せない場所。
「やってくれるねぇ。
死神泣かせの天才だよ、ほんと」
レイヴは肩をすくめる。
世界は、ひどい有様だ。
死ぬはずの王が生き延び、
生きるはずの子どもが事故で消える。
確率が、
倫理を無視して踊っている。
「これだから自由ってやつは。
管理されてた方が、楽だったろ?」
誰にともなく言う。
だが。
その“楽”のために、
誰かが勝手に順番を決める。
それを壊したのは、
あの老人だった。
レイヴは現れる。
街の屋根の上。
月を背に、
二人の若者を見下ろす。
「やあ、あの老人の相続人たち」
ルアーナが振り返る。
リュカが身構える。
「世界、ずいぶん散らかしたな?
イヒヒヒヒ」
二人は知らない。
この死神が、
世界で一番“味方寄り”だということを。
介入しない理由
「助けてくれるの?」
ルアーナが問う。
レイヴは即答する。
「やだね」
笑う。
「死神はな、
“決める”のが仕事じゃない」
彼は知っている。
ここで手を出せば、
未来はまた“固定”される。
それは、
アイゼンが命を賭けて壊したものだ。
それでも現れる理由
「じゃあ、なんで来た」
リュカの問いに、
レイヴは指を立てる。
「忠告だよ」
そして、
楽しそうに言う。
「じいさんは死んでない。でも、生きてもいない」
二人の息が止まる。
「つまり――
見つけなきゃ、戻れない」
イヒヒヒヒ、と笑う。
死神の賭け
レイヴは面白がっている。
未来を考える少女。
逃げ続ける少年。
そして、運命の外にいる老人。
「三人揃えば、
そりゃもう退屈しないだろ」
彼は知っている。
この世界は、
もう一度“選択”を迫られる。
次は、
誰も犠牲にせずに。
「さあて。
どこまでやれるかな?」
死神は消える。
帳簿を閉じながら、
ぽつりと呟く。
「生きてるってことは、
面倒で、最高だよなぁ。イヒヒヒヒ」




