第7話 さらば相棒
〈クロノ・ロック〉は、完全に沈黙していた。
あれほど脈打っていた光は消え、
中枢室には、爆煙と焼けた金属の匂いだけが残っている。
静寂。
瓦礫の向こうに、
一つの人影が立っていた。
アイゼンハワード。
衣服は煤に汚れ、
呼吸も浅い。
だが、その背筋は、最後まで伸びていた。
彼は、ゆっくりと帽子を脱ぐ。
白くなった髪が、
煙の中にさらされる。
「……悪くない旅だった」
誰に聞かせるでもない言葉。
後悔はない。
誇りも、言い訳もない。
ただ、事実としての一言だった。
その少し離れた場所で、
レイヴが立っていた。
腕を組み、
珍しく、軽口を叩かずに。
しばらくの間、
二人の間に言葉はなかった。
やがて、レイヴが口を開く。
「ほんと、勝手なじいさんだ」
肩をすくめ、
いつもの笑みを浮かべる。
「でもまあ……
これ以上、似合う終わり方もないか」
アイゼンは、振り返らない。
「見届け役、助かった」
それが、最後の会話だった。
レイヴは一歩、後ろへ下がる。
干渉しない距離。
見送るための距離。
「じゃあな、最高の相棒」
軽く手を挙げる。
「また会うさ――
死んだらな」
そして、笑う。
「イヒヒヒヒ」
その笑い声を最後に、
光が、静かに収束した。
次の瞬間。
アイゼンハワードの姿は、
煙の中から消えていた。
残されたのは、
床に置かれた一つの帽子だけ。
レイヴはそれを見下ろし、
小さく息を吐く。
「……盗み切りやがったな」
運命も、
秩序も、
そして――別れさえも。
死神は踵を返し、
静かな中枢室を後にした。
新しい未来が、
もう、動き始めている。




