第5話 止める者たち
中枢室の光が、さらに強まっていた。
〈クロノ・ロック〉は、
まるで意思を持つかのように脈打ち、
空気そのものを張り詰めさせている。
アイゼンは装置へ向かって歩き出す。
その背中は、いつもと変わらない。
だからこそ。
「待って!」
ルアーナの声が、割れる。
彼女は駆け出し、
アイゼンの腕を掴んだ。
「また勝手に決めるの!?」
涙が、止まらなかった。
「いつもそう!
危ないことも、辛いことも、
全部一人で背負って……!」
アイゼンは振り返らない。
ただ、立ち止まる。
「それが大人だ」
静かな声。
「違う!」
ルアーナは首を振る。
「それは……逃げだよ!」
一歩、前に出たのはリュカだった。
小柄な体で、
それでも確かに、道を塞ぐ。
「正しくても、優しくない」
震えながらも、
その言葉だけは譲らなかった。
「それで誰かが消えるなら、
僕は……正しさなんて、要らない」
沈黙。
装置の光が、
三人の影を絡め取る。
アイゼンは、二人を見た。
泣いている少女と、
必死に立つ少年。
そして
ほんの一瞬だけ、迷う。
だが、それは一瞬だった。
「だからだ」
低く、穏やかに言う。
「君たちは、
選ばなくていい」
「それは……」
ルアーナの言葉は、
嗚咽に変わる。
そのとき。
「おーおー。
青春だねぇ」
軽い拍手の音。
レイヴが、柱にもたれていた。
相変わらずの笑み。
だが――
一歩も、動かない。
止めもしない。
「止めたら後悔するぜ?」
楽しそうに、
けれど、どこか真剣に言う。
「あとで思うんだ。
あのとき、止めなきゃよかったって」
「イヒヒヒヒ」
ルアーナは、レイヴを睨む。
「あなたは……!」
「死神だからね」
肩をすくめる。
「奪う側は、選ばせない」
その言葉が、
逆に優しかった。
アイゼンは、二人の前に膝をついた。
目線を合わせる。
「正しいことはな、
誰かを泣かせる」
「でも」
リュカが、歯を食いしばる。
「優しさは……残せる」
アイゼンは、微笑んだ。
「だから、君たちが残る」
立ち上がる。
「俺は、行く」
誰も、止められなかった。
光の向こうへ、
彼は歩き出す。
背後で、レイヴが呟く。
「……最高に、らしいよ」
小さく、笑う。
「イヒヒヒヒ」
運命を盗む瞬間は、
もうすぐそこだった。




