プロローグ 運命を盗みに行く
【オープニング ナレーション】
さあ行くぜ。
今夜の主役は、
老練の魔導捜査官・アイゼンハワード。
天才を自称する少女・ルアーナ。
不器用な努力家の少年・リュカ。
そして、“死神”と噂されながら、
誰にも正体を明かさぬ謎の男、レイヴ。
旅の行き先は、いつだって風まかせ。
だが今回も違った。
世界の裏側で、
誰にも気づかれぬまま進められていた計画があった。
運命干渉装置〈クロノ・ロック〉。
それは人の寿命を測り、
死ぬ順番を書き換え、
世界を“安全な形”に保つための禁忌の発明だった。
誰が先に死に、
誰が後に残るか。
それを決めるのは、もはや神でも偶然でもない。
秩序だ。
その存在に辿り着いたのは、
休職中の放浪魔導捜査官、アイゼンハワード。
老いてなお鋭い目で、
彼は一目で理解していた。
この装置を止める方法は、ひとつしかない。
誰かが、“予定された死”を引き受けること。
そしてそれが、
自分以外であり得ないことも。
「また一人で決めるつもり!?」
ルアーナの声が、夜気を裂く。
怒りと恐怖が、まっすぐにぶつけられていた。
リュカは何も叫ばない。
ただ静かに首を振り、ぽつりと言う。
「……それ、正しいけど。
優しくない」
沈黙を破ったのは、
黒衣の青年死神レイヴだった。
「はは。さすがだよ、じいさん」
軽く肩をすくめ、楽しげに笑う。
「運命そのものを盗む気か」
今回の敵は、国家でも魔王でもない。
剣も魔法も通じない。
敵は、“秩序”そのもの。
追われ、
撃たれ、
欺き合いながら、
それでもアイゼンは歩く。
いつものように軽口を叩き、
いつものように背中で語りながら。
「相棒たちよ」
中枢へと続く道の先で、
彼は帽子のつばを軽く持ち上げる。
「今回盗むのは、
金でも、命でもない」
一瞬の間。
「未来を選ぶ権利だ」




