第5話 失敗カルテと涙のナースキャップ
成績査定の日。
教室の空気は、
消毒薬よりも張り詰めていた。
さっちゃん先生は、教卓に立ち、
分厚い評価表を置く。
「……今回の実習評価、返すわ」
一斉に息を呑む生徒たち。
「焔丸。判断は正確。でも視野が狭い。B」
「カグヤ。安定してる。A」
「アトラス。患者対応は良いけど、独断行動が多すぎ。C」
「ミミ……感情読みは優秀。でも自己犠牲が強い。B−」
ざわめく教室。
「ルリ……C」
ルリの肩が、びくっと震えた。
「見てないんですか」
「……先生」
ルリが立ち上がる。
「私、毎日残って練習しました」
声が、震えている。
「患者さんに優しくしようって……」
唇を噛みしめて、
「先生は……
私たちの努力、見てないんですか……?」
ぽろ、と涙が落ちた。
教室が凍りつく。
さっちゃん先生はすぐに言い返さなかった。
ツノが、ほんのり赤く光る。
(……また、同じ顔)
遠い記憶。
厳しさだけで追い込み、
自信を失わせ、
医療の道から去っていった教え子。
(あの時も……私は、正しいと思ってた)
放課後。
ミミが、小さな声で言う。
「……あれ、やろ」
棚から取り出される、
白いナースキャップ。
「失敗した人がかぶるやつだっけ?」
「ううん」
ミミは首を振る。
「一人じゃないって思い出すためのやつ」
ルリが、涙を拭ってキャップをかぶる。
「……恥ずかしい」
「大丈夫」
ユミカがそっと肩に手を置く。
「恋も失敗するし」
「今それ言う?」
笑いが、少しだけ戻る。
一人、また一人。
キャップが回される。
「次は俺な!」
オニグレンが被って、敬礼。
「俺、Cだけど折れない!」
小さな拍手。
夜の職員室
校舎は静まり返っている。
さっちゃん先生は、職員室で一人。
カルテを開く。
【ルリ】
・共感力:高
・判断力:未熟
・努力:毎日確認済
ペンが、止まる。
(……見てたじゃない)
次のページ。
【焔丸】
【ミミ】
【アトラス】
どのページにも、
細かいメモ。
自分でも驚くほど、
ちゃんと“見ていた”。
気づけば、視界が滲んでいた。
「……バカね、私」
ツノを押さえ、静かに笑う。
「泣かせるくらいなら……
もっと、伝え方があったでしょうに」
鬼教師の決意
カルテを閉じる。
明かりを消す前に、ひとこと。
「……明日は、言うわよ」
誰にも聞かれない声で。
「あなたたちは、ちゃんと育ってるって」
窓の外、
夜風がナースキャップを揺らしていた。
【教師】
エリオット
人間界から来た新任教師
黒髪、眼鏡、白衣が似合いすぎる清潔感男子
身長178cm、やや細身
表情は柔らかいが、目元だけは医者の鋭さがある
【生徒たち】
焔丸
クラス委員長。炎属性の治癒術師。
真面目すぎて融通が利かないが、芯のある優しさが見える。
さっちゃんに憧れている初心者ファン。
ユミカ=スノーリーフ
氷属性の癒術士見習い。
見た目はクールだが中身はロマンチスト。
蒼井教授を見るたびにぽーっとしてしまう。
女子の中で“一番恋に早いタイプ”。
オニグレン
筋肉全振りのレスキュー担当志望。
力はあるが頭脳はゼロ。
「笑う救急車」と呼ばれている。
重症患者にも笑顔で対応できるのが長所。
カグヤ=ナースロッド
器用で優秀な現実主義者。
心霊や恋愛には興味ゼロ。
最もさっちゃんに似ていると言われる才女。
ミミ=パルト
小柄な獣人族の少女。
感情が強い患者の感情を読み取り、傷を癒す特技を持つ。
心優しく、クラスのマスコット的存在。
雷士
電撃治癒師志望の少年。
スピードと判断力に長けるが短気。
ユミカに片想いしているが、全く気づかれていない。
ジゾー丸(地蔵族)
動かない。
ほぼ喋らない。
でも誰よりも洞察力が鋭く、たまに核心をつく一言を言う。
プリム=ハートナー
“恋愛療法”専門家志望の少女。
患者に恋をさせて治す特殊能力の持ち主。
恋愛のプロとしてさっちゃんを指導しようとするが毎回怒られる。
バオ=クトゥルフ
異形の種族。見た目は怖いが性格は天使。
包帯交換が異常に上手い。
小児科志望。
キリサメ兄妹(双子)
息ぴったりの双子の治癒士。
実習では常に連携し、トラブル時に強い。
ただし兄妹ゲンカが多く、患者の前で言い争うことも。




