第1話 鬼教師、着任す450歳の恋と教育
新学期の朝
3年ONI組の教室は、すでに修羅場だった。
「言ったわよね!? あたしのポーション勝手に使うなって!!」
「使ってないわよ! あんたの顔に合う薬なんて存在しないし!!」
机をひっくり返して殴り合うマカとルリ。
その横でアトラスは黙々と机を担ぎながら腕立て伏せ。
「フンッ! フンッ! 机一個じゃ軽いな!」
カエデはそんな地獄を完全スルーで
「え、ねえ聞いて!昨日の彼氏がさー!」と恋バナに夢中。
この教室に、秩序など存在しない。
だが次の瞬間。
バリィィィンッッ!!!
教室の天井から巨大な雷が落ちた。
床が揺れ、窓ガラスが震え、生徒達が凍りつく。
煙の中から、ちんまりしたシルエットが歩み出る。
外見は小学生。
だが瞳は450年の修羅を見てきた鬼の色。
鬼教師・さっちゃん先生、着任――。
「自己紹介。
あんたらの担任、さっちゃん先生よ。
今年も、鬼ヅラ下げて頑張りなさい」
全員「(……小学生?)」
次の瞬間、さっちゃんの杖がゴンッと床を叩くと、
雷光がバチンと走り、全員の椅子が強制的に立て直された。
「はい着席。
今“誰だこのガキ”って思った奴は後で職員室来い」
3年ONI組は一瞬で黙った。
そのとき、教室のドアが控えめに開いた。
「失礼します、エリオットと申します。
人間界から派遣された実習担当で――」
さっちゃん
「新任ね。よろしく。
とりあえず後ろの爆発止めときなさい」
教室後方ではマカとルリの魔法が暴発して爆煙が充満していた。
エリオット
「ちょっ……魔界式の指導って、こんな危険なんですか!?
生徒が怪我したらどうするんです!?」
「治せばいいでしょ」
「発想が学園じゃない!! これは戦場だ!!」
クラス全員
「さっちゃん先生の普通=戦場」
エリオットは軽く震えていた。
(これが……魔界の“鬼教師”…!?)
午前の授業は保健実習だった。
臨床室に運ばれてきたのは、巨大な狼型魔族。
怒りで暴走し、治療スタッフを威嚇している。
エリオット
「危険です!拘束しないと!」
さっちゃん
「拘束? 必要ないわよ。
……ちょっと静かにさせるから」
彼女は小さな体で、巨獣の前にすっ…と立つ。
狼魔族
「GRAAAAAA!!」
次の瞬間。
ガンッ!!
杖で眉間を一発。
それだけで巨獣が黙り込み、震え、目を伏せた。
さっちゃん
「はい。まずは呼吸整えて。耳貸しなさい」
450年分の治癒魔法が流れ込み、
狼魔族の暴走魔力がみるみる安定していく。
エリオット
(……なんて精緻な魔力操作だ。
怒りの魔力だけを抜き取り、治癒の波で包んでいる……!)
治療が終わると、生徒たちは完全に見惚れていた。
マカ
「……すげぇ」
ルリ
「なんなのあの技……」
アトラス
「やっぱ鬼だ……」
カエデ
「恋しちゃうレベル」
エリオットは素直に頭を下げた。
「……失礼しました。先生のやり方、見直しました」
「最初からそう言えばいいのよ。
あんた、人間のくせにプライド高いわね」
エリオット
「(ちょっと傷つく……)」
全員が帰ったあと。
さっちゃんは、ひとり静かな教室に残っていた。
夕陽が差し込み、机の影が長く伸びる。
「……はぁ。
今年も手のかかる子ばっかりね」
椅子に座り、ツノをそっと触る。
「生徒はいいけど……今年こそ……」
小声で、誰に聞かせるでもなくつぶやく。
「……恋もしたいわね」
ツノが、うっすら赤く光った。
その色を、誰も知らない。
450歳の鬼教師の、恋と教育の一年が幕を開ける。
【教師】
エリオット
人間界から来た新任教師
黒髪、眼鏡、白衣が似合いすぎる清潔感男子
身長178cm、やや細身
表情は柔らかいが、目元だけは医者の鋭さがある
【生徒たち】
焔丸
クラス委員長。炎属性の治癒術師。
真面目すぎて融通が利かないが、芯のある優しさが見える。
さっちゃんに憧れている初心者ファン。
ユミカ=スノーリーフ
氷属性の癒術士見習い。
見た目はクールだが中身はロマンチスト。
蒼井教授を見るたびにぽーっとしてしまう。
女子の中で“一番恋に早いタイプ”。
オニグレン
筋肉全振りのレスキュー担当志望。
力はあるが頭脳はゼロ。
「笑う救急車」と呼ばれている。
重症患者にも笑顔で対応できるのが長所。
カグヤ=ナースロッド
器用で優秀な現実主義者。
心霊や恋愛には興味ゼロ。
最もさっちゃんに似ていると言われる才女。
ミミ=パルト
小柄な獣人族の少女。
感情が強い患者の感情を読み取り、傷を癒す特技を持つ。
心優しく、クラスのマスコット的存在。
雷士
電撃治癒師志望の少年。
スピードと判断力に長けるが短気。
ユミカに片想いしているが、全く気づかれていない。
ジゾー丸(地蔵族)
動かない。
ほぼ喋らない。
でも誰よりも洞察力が鋭く、たまに核心をつく一言を言う。
プリム=ハートナー
“恋愛療法”専門家志望の少女。
患者に恋をさせて治す特殊能力の持ち主。
恋愛のプロとしてさっちゃんを指導しようとするが毎回怒られる。
バオ=クトゥルフ
異形の種族。見た目は怖いが性格は天使。
包帯交換が異常に上手い。
小児科志望。
キリサメ兄妹(双子)
息ぴったりの双子の治癒士。
実習では常に連携し、トラブル時に強い。
ただし兄妹ゲンカが多く、患者の前で言い争うことも。




