プロローグ 伝説のさっちゃん先生、魔界医療看護学校へ赴任
魔界医療看護専門学校 通称 MIM。
魔界随一の医療者育成機関であり、人間界と魔界をつなぐ医療のハブ。
講義・演習・臨地実習が緻密に組まれ、魔界の名医は必ずここを通ると言われる。
その校門前に、小柄な影が立っていた。
外見は小学生。背丈も低い。ランドセルを背負っていても違和感がない。
しかし、その杖には古の魔法陣が刻まれ、ツノは鋭く、瞳には450年分の疲労と覚悟が宿っている。
3年ONI組担任 さっちゃん先生(450歳)。
鬼の名医にして鬼の名教師。
治癒魔法・薬理学・看護術はどれを取ってもトップクラス。
口は悪くツッコミは早いが、誰より生徒思いだ。
ただ一つ問題なのは……
恋愛偏差値だけが壊滅的に低い。
本人が恋を意識した瞬間、ツノが真っ赤に発光するという致命的特徴つきである。
校門をくぐると、厳格な鬼が腕を組んでいた。
銀山教頭(300歳)
「……遅い。規律はすべてだと、何度言えばわかる?」
「うるさいわね、銀山。初日から説教とか縁起悪いでしょ」
「お前が守らんから言っているんだ」
口では喧嘩腰だが、銀山の目には微かに安心の光。
さっちゃんが戻ってきてくれた――そう言いたそうだが、絶対に言わないのが銀山流である。
そこへ、白衣の裾を翻して歩いてくる青年がいた。
柔らかい瞳に、凛とした気品。人間界の香りがする。
蒼井教授(昭和大学医学部)
精神医療と心療魔術の専門家。
今年度、特別交流教授としてMIMに派遣された。
「はじめまして、さっちゃん先生。蒼井です。
生徒さんたちのメンタルケアは私が全力で支えます。
あなたの噂は、人間界でも有名で……その、すごく尊敬しています」
「え、あ、え、そうなの……? ま、まあ当然よね?(ツノ発光)」
銀山教頭
「ツノが光っているぞ」
「光ってないわボケェ!!」
蒼井教授は気づいていない。
だが彼の視線には、さっちゃんへの特別な関心が、すでに滲んでいた。
一方、研究棟では異様な気配がうごめいていた。
ミネルバ先生(200歳)
魔界薬学のトップ研究者。
フラスコを振りながら、小柄な体で跳ねるように現れた。
「さっちゃーん! 今日も可愛いねー! ねえ見て見て、昨日作った薬でウサギが六つ子になったの!」
「犯罪だろそれは!!」
恋愛?興味ゼロ。
研究>>>>生命の尊厳の狂気の科学者。
しかし、さっちゃんの親友。
さらに廊下の向こうからは、ゆっくり歩く“癒しの女神”が現れる。
ルル=アルケミア講師(150歳)
「皆さん、今日も穏やかにいきましょうね」
生徒たちの黄色い歓声。
見惚れるほど美しい。歩くだけで癒しのエフェクトが舞う。
「おはよう、さっちゃん先生。
……今日も“走る鬼”って呼ばれてましたよ」
「誰よそんなこと言った奴!! 表出ろ!!」
ルル
「(微笑)落ち着いてください」
そして薄い影が現れたのは、いつの間にか。
オーラ先生
心のケアと危険予知の専門家。
幽霊のように存在が薄く、誰も気づかないうちに会話に混ざっている。
「……今年は、波乱が来ますよ。特に、さっちゃん先生の恋愛運が」
「やめて!! 聞きたくない!!」
こうして個性が暴走する教員たちの中で、
3年ONI組担任・さっちゃん先生の一年が、騒がしく幕を開けた。
医療を学び、心を救い、恋に迷い、時にはツノを光らせながら
伝説の鬼の授業が、いま始まる。




