エピローグ 夜明けの残響 、アイゼン、最後の命令
赤い月が消え去り、アグラディアにようやく朝の光が戻り始めた。
巨大魔方陣は崩壊。《ラスト・トリガー》も消滅し、世界は終焉直前で踏みとどまった。
儀式場には、静寂だけが残っている。
瓦礫の中に、まだ微かな呼吸が
ルアーナが反応装置を確認しながら叫ぶ。
ルアーナ
「生体反応あり! シオン、生きてる!」
リュカ
「兄さん!!」
崩れた魔力柱の根元に、ぐったり倒れたシオンの姿。
仮面は砕け、顔には涙と魔力の亀裂が走っている。
それでも胸が上下していた。
シオン
「……リュカ……すまない……俺は……まだ……」
リュカ
「謝るなよ。生きて……生きてくれたら、それでいい……!」
シオンは力尽きて目を閉じるが、その手はしっかりとリュカの腕を掴んでいた。
そこへギルド警備隊と国家魔導警察が到着する。
警備隊長
「スカー=シオン。多数の魔導犯罪及び国家反逆行為の容疑で確保する」
リュカ
「やめろ!兄さんは――」
アイゼンが静かに前へ出る。
アイゼン
「連れて行かせろ、リュカ。
だが安心しろ。償う道は、生きる道でもある」
リュカは強く唇を噛む。
「……わかってます。でも、絶対に……助け出します」
シオンは拘束タグをつけられ、救命魔導車に運び込まれていった。
その目は一瞬だけリュカを見て、わずかに微笑んだ。
死神レイヴは、裂け目の残光を押さえ込みながら、ふっと笑った。
レイヴ
「人間ってやつはしぶといな。
……で、ジジイ。お前の寿命、少し延ばしておいたぞ」
アイゼン
「余計なことを」
レイヴ
「お前、まだ死ぬ気ない顔してるだろ?」
そう言って、朝日の光へ溶けるように姿を消す。
ルアーナは巨大魔方陣の残骸を解析しながらつぶやく。
「これを解明すれば……
“死者の扉”と“記憶の理論”が全部再定義されるわね。
研究テーマに困らなくて済むわ」
アイゼン
「やれやれ、世界はまだ忙しくなりそうだ」
騒ぎが落ち着いたころ、アイゼンは誰にも告げず、自室へ戻った。
机には、古びた地図と外套、杖。
アイゼン
「……世界は若い連中に任せりゃいい」
静かに外套を羽織り、杖を手に取る。
ドアに向かう途中―
どこからか、亡き相棒リュシアの声が聞こえたような気がした。
リュシア
『……これが最後よ、アイゼン』
アイゼン
「最後じゃなかったさ。
……まだ続きが残っている」
彼は微笑み、朝焼けの街路へと歩き出す。
「アイゼンハワード最後の旅 9 赤い月に消えるラスト・トリガー」
ーTHE ENDー




