第七話 最後の月夜の追跡 、赤い月が堕ちる時
深夜のアグラディア。
赤い月が都市をなめるように照らし、街路は血潮のように染まっていた。
空では
巨大な魔方陣が、不気味に、官能的に、静かに回転を始める。
赤い紅い月の伝説
“千年に一度の月夜。誰も彼もが浮かれてる中、ひとつだけ確かなことがある。
この夜は、何かが終わって、何かが始まる。”
「うわぁぁあああ!! 魔物だ! なんだこの数!!」
逃げ惑う市民。
軍は右往左往、准将ハルトンは避難用の車両の中で
「誰か私より優秀な者は!いないのか!? ……あ、やっぱりいないか」
と謎の自己肯定をしていた。
ルアーナが鼻で笑う。
「軍、ほんっと役立たずね。こんなの“手品の前座”でしょ」
背後で魔物を斬り飛ばしながら、死神レイヴが吐き捨てる。
「こいつらの“おもてなし”、もう飽き飽きだ。次はもっと上等なの出せ」
そんな混乱の中、アイゼンはコートを翻し、
落ち着きすぎているほど静かに歩く。
「赤い月が堕ちる時、世界が終わる……か。
まったく、老人の美学が許さんのだよ。
俺が気持ちよく老衰するまで、世界にはもってもらわんとね」
ルアーナが小声で突っ込む。
「アンタほど図太い老人、世界でも希少種よ」
一方、リュカは頭上の魔方陣を見上げ、息を呑む。
「あれ……兄さんが起動させた。
ラストトリガーが扉を……!」
アイゼンが肩を軽く叩く。
「泣きたきゃ、終わってから泣け。
やるべきことは、まだ山ほどある」
涙を拭き、リュカは頷く。
都市上空から、黒い影が滑るように逃げる。
シオン“仮面の術師スカー”。
その背を追い、四人は音もなく飛び出した。
夜風を切り裂く足音。
瓦屋根を跳ぶ影。
銃弾のように光る魔力。
月夜の追跡劇ってやつは、スリルとロマンがなきゃ始まらない。
そして今回の四人
ルアーナ
「追いつく! あの赤いマント、視界から外さないで!」
リュカ
「兄さん! もうやめて!!」
スカー(シオン)
「来るな、リュカ。
これは……俺が“失ったもの”のためなんだ!」
赤い月がさらに深く染まり、
魔方陣が、蝶の羽ばたきのように明滅する。
アイゼンは小さく舌打ち。
「時間がない。行くぞ、若造ども。
千年に一度の夜に、老人が主役を奪ってやろう」
死神レイヴがニヤリ。
「老人、俺より先に死ぬなよ?」
アイゼン
「お前の番は、俺が指名した時だ」
ルアーナ
「はいはい、カッコつけ合戦は後! 赤い月が堕ちたら終わり!」
四人の足が、さらに加速する。
巨大魔方陣の中心へ
シオンのもとへ
世界の命運がかかった、最後の月夜の追跡が始まる。




