第六話 スカーの素顔!失われた魂の正体 〜仮面の下の名〜
赤い月が照らすルージュ=ナイトの裏路地で、
アイゼンは足を止めた。
まるで誰かの呼吸音まで計算するように、
静かに、鋭く周囲を見渡す。
ルアーナが小声で尋ねる。
「先生、もう“動き”が読めたの?」
「奴は常に 月の影 を歩いている。
そして……過去に囚われた人間は、
同じ場所へ戻りたがるもんだ」
リュカが眉を寄せる。
「同じ……場所?」
アイゼンは路地の奥を指差した。
崩れた古い神殿――
“記憶の間”と呼ばれる廃墟。
「そこは昔、魂の記録を保管していた施設だ。
スカーが“失われた魂”を求めるなら……間違いなくここに来る」
レイヴが肩をすくめ、
口元を歪めて笑った。
「先生の推理、久々に冴えてるじゃん。
若返った? イヒヒヒヒ」
「殴るぞ、死神」
「はいこわいイヒヒヒヒ」
◆◆◆
四人が神殿の階段を上がると、
中には、すでに“奴”がいた。
黒いローブ、歪んだ仮面。
スカー。
仮面の向こうで、低い声が響く。
「来たか……アイゼンハワード」
アイゼンはため息をひとつつく。
「そろそろ正体を見せてもいい頃だろ」
スカーは一瞬沈黙し、
仮面に手をかけた。
カシャン……
静かな音と共に、
仮面が落ちる。
露わになった顔は――
リュカと同じ、澄んだ瞳。
「……え?」
リュカの声が震えた。
ルアーナも目を見開く。
「これって……」
アイゼンが静かに答える。
「シオン。
リュカの兄だ」
シオンは、
どこか壊れかけた優しさで微笑んだ。
「リュカ……久しぶりだな」
リュカはその場に固まったまま動けない。
口が震えて、声が出ない。
「兄さん……?
だって、兄さんは……研究所の事故で……」
シオンの瞳が揺れる。
「“死んだ”よ。
あの日、確かに一度はな」
ルアーナが怒りを込めた声で叫ぶ。
「どういうこと!?
じゃあ今のあなたは……!」
「魂を……繋ぎ止めただけだ。
この世界の“死者の扉”が開く兆しに、
わずかな望みを見た」
レイヴの目が細くなる。
「つまり、君は半分死者……
半分生者。
扉の鍵ってわけだねイヒヒヒヒ」
シオンはゆっくりとうなずいた。
「リュカ……
お前を救いたかった。
研究所は、お前を“次の媒体”にしようとしていた。
だから……逃がした。
その代償で、俺は死んだ」
リュカの身体が震える。
「……そんなの、知らなかった。
兄さんが……僕を……」
シオンは歩み寄ろうとする。
だが――
アイゼンが杖で行く手を遮った。
「そこまでだ。
兄弟の再会に水を差すのは悪いが……
お前の計画は“世界の崩壊”だ」
シオンは目を閉じた。
「世界など、どうでもいい。
俺にとって大事なのは……
リュカだけだ」
リュカの胸が締め付けられる。
「兄さん……もうやめて……
僕のために、人の命を……!」
その言葉に、
シオンは短く、悲しげに微笑んだ。
「やめるさ。
お前が望むなら」
「……え?」
「だから行く。
扉が完全に開く前に、
俺は“向こう側”に戻る」
言い終わると同時に――
シオンの身体が、
月明かりに溶けるように薄くなっていく。
「兄さん!?」
シオンは最後に、
弟に向けて優しく微笑んだ。
「生きろ、リュカ。
……それだけでいいんだ」
そして。
赤い月の光の中――
シオンは静かに消えた。
リュカはその場に崩れ落ちた。
「兄さん……!!」
アイゼンは何も言わなかった。
ただ、その肩にそっと手を置いた。
レイヴは背を向け、
珍しく笑わなかった。
「……悲しいね。
でも、まだ終わらないよ」
赤い月は、さらに深く世界を照らした。




