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【ランキング12位達成】 累計62万7千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
「アイゼンハワード最後の旅 9 赤い月に消えるラスト・トリガー」

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第六話 スカーの素顔!失われた魂の正体 〜仮面の下の名〜

赤い月が照らすルージュ=ナイトの裏路地で、

アイゼンは足を止めた。

まるで誰かの呼吸音まで計算するように、

静かに、鋭く周囲を見渡す。


ルアーナが小声で尋ねる。

「先生、もう“動き”が読めたの?」


「奴は常に 月の影 を歩いている。

 そして……過去に囚われた人間は、

 同じ場所へ戻りたがるもんだ」


リュカが眉を寄せる。

「同じ……場所?」


アイゼンは路地の奥を指差した。

崩れた古い神殿――

“記憶のメモリア”と呼ばれる廃墟。


「そこは昔、魂の記録を保管していた施設だ。

 スカーが“失われた魂”を求めるなら……間違いなくここに来る」


レイヴが肩をすくめ、

口元を歪めて笑った。


「先生の推理、久々に冴えてるじゃん。

 若返った? イヒヒヒヒ」


「殴るぞ、死神」


「はいこわいイヒヒヒヒ」



◆◆◆



四人が神殿の階段を上がると、

中には、すでに“奴”がいた。


黒いローブ、歪んだ仮面。

スカー。


仮面の向こうで、低い声が響く。


「来たか……アイゼンハワード」


アイゼンはため息をひとつつく。


「そろそろ正体を見せてもいい頃だろ」


スカーは一瞬沈黙し、

仮面に手をかけた。


カシャン……


静かな音と共に、

仮面が落ちる。


露わになった顔は――

リュカと同じ、澄んだ瞳。


「……え?」


リュカの声が震えた。


ルアーナも目を見開く。


「これって……」


アイゼンが静かに答える。


「シオン。

 リュカの兄だ」


シオンは、

どこか壊れかけた優しさで微笑んだ。


「リュカ……久しぶりだな」


リュカはその場に固まったまま動けない。

口が震えて、声が出ない。


「兄さん……?

 だって、兄さんは……研究所の事故で……」


シオンの瞳が揺れる。


「“死んだ”よ。

 あの日、確かに一度はな」


ルアーナが怒りを込めた声で叫ぶ。


「どういうこと!?

 じゃあ今のあなたは……!」


「魂を……繋ぎ止めただけだ。

 この世界の“死者の扉”が開く兆しに、

 わずかな望みを見た」


レイヴの目が細くなる。


「つまり、君は半分死者……

 半分生者。

 扉の鍵ってわけだねイヒヒヒヒ」


シオンはゆっくりとうなずいた。


「リュカ……

 お前を救いたかった。

 研究所は、お前を“次の媒体”にしようとしていた。

 だから……逃がした。

 その代償で、俺は死んだ」


リュカの身体が震える。


「……そんなの、知らなかった。

 兄さんが……僕を……」


シオンは歩み寄ろうとする。

だが――


アイゼンが杖で行く手を遮った。


「そこまでだ。

 兄弟の再会に水を差すのは悪いが……

 お前の計画は“世界の崩壊”だ」


シオンは目を閉じた。


「世界など、どうでもいい。

 俺にとって大事なのは……

 リュカだけだ」


リュカの胸が締め付けられる。


「兄さん……もうやめて……

 僕のために、人の命を……!」


その言葉に、

シオンは短く、悲しげに微笑んだ。


「やめるさ。

 お前が望むなら」


「……え?」


「だから行く。

 扉が完全に開く前に、

 俺は“向こう側”に戻る」


言い終わると同時に――

シオンの身体が、

月明かりに溶けるように薄くなっていく。


「兄さん!?」


シオンは最後に、

弟に向けて優しく微笑んだ。


「生きろ、リュカ。

 ……それだけでいいんだ」


そして。


赤い月の光の中――

シオンは静かに消えた。


リュカはその場に崩れ落ちた。


「兄さん……!!」


アイゼンは何も言わなかった。

ただ、その肩にそっと手を置いた。


レイヴは背を向け、

珍しく笑わなかった。


「……悲しいね。

 でも、まだ終わらないよ」


赤い月は、さらに深く世界を照らした。


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