第五話 ルージュ=ナイト起動!スカーの罠の真相
赤い月が、ゆっくりと都心に沈まないまま昇り続けていた。
魔都ルージュ=ナイト。
ビルの谷間から、突如として巨大な炎柱が立ち上がる。
ドォオオオオンッ!!!
「火災発生区域、拡大中! 制御できません!」
「魔力濃度が跳ね上がってるぞ!」
「避難ルートが全部炎で塞がれた!?」
軍の管制塔はパニックだった。
その混乱の中心で、
一人の男が無駄に胸を張っていた。
軍服を着崩し、金の肩章。
口髭を妙に整えた中年男。
ハルトン准将。
自称・“軍の切り札”。
実際は“軍が最も隠したい人材”。
「よし、落ち着け諸君!
この大火災はスカーの仕業だ!
……たぶん!」
「“たぶん”って言ったな今!?」
周囲の部下が絶望の顔をした。
そこへ通信兵が駆け込む。
「し、指揮官! 例のラスト・トリガーを盗んだ容疑者として……
アイゼンハワード元捜査官の名前が──」
「よしそれだ! それでいこう!」
「えっ、即決!? 根拠は!?」
ハルトンは胸を反らす。
「根拠?
私の勘だ!」
部下Aがつぶやく。
「(この人が上司なの、つらい……)」
◆◆◆
一方そのころ
火の手が迫る路地裏を駆け抜けながら、
ルアーナが怒髪天だった。
「先生! あの無能准将が、今なんて言ってたか知ってます!?」
アイゼンが帽子を押さえつつため息をつく。
「どうせ碌でもないこったろうよ」
「容疑者ですってよ!? 私たちが!?
“ラスト・トリガーを盗んだ犯人かもしれん!”
だって! あんたらの脳みそ化石なの!?」
レイヴが笑い転げる。
「いや〜人間って面白いよなぁイヒヒヒヒ!
目の前の炎より、的外れな疑いを最優先とは!」
リュカが不安げに振り返る。
「先生……どうするの?」
アイゼンは杖を突きながら軽く笑った。
「どうもこうも、決まってるさ。
無能の処理は、できるやつがやるしかねえ。
それが世界の理だ」
四人は軍に包囲される。
「元捜査官アイゼンハワード!
あなたはラスト・トリガー盗難の容疑で──」
ルアーナが前に飛び出した。
目は完全に冷気。
「言っとくけどねぇ……
私らより頭を使って話してよ。
じゃないと文明開化の前に戻るわよ?」
兵士たちが後ずさる。
「(こ、こいつ……怖い……!)」
ハルトン准将が後ろからのそのそ現れた。
「ふん、若造の口のきき方ではないぞ!
この天災のような火災、そして赤い月。
全て貴様らの仕業と見た!」
レイヴが肩を震わせる。
「天災はお前の脳みそだろイヒヒヒヒ!」
ハルトンが怒鳴る。
「黙れ! 死神風情が!」
アイゼンが前に出た。
「准将。あんたみたいなのが現場を仕切るから……
本物の悪党が喜ぶんだよ。
もう手遅れかもしれんが、現実を見るんだな」
その瞬間。
ビル上空で、巨大な魔術陣が輝いた。
──ズォオオオッ!!
「でたな……スカーの本命だ」
炎は“自然火災”ではない。
街そのものを魔力炉心として使う巨大な魔術装置の一部。
火災はただの“偽の混乱”。
真の目的は、街を丸ごとラスト・トリガーの起動装置に変えること。
ルアーナが青ざめる。
「これ……本当に街が……消える!」
リュカが呟いた。
「止められるの、僕たちだけ……?」
アイゼンは帽子を深くかぶり、ニヤリと笑う。
「当たり前だろ。
世界を救うのは、無能じゃなくて──
働きたくない老骨と、優秀な若造たちさ。」
四人は炎の街を突破し、
スカーの本拠・ルージュ=ナイト制御塔へ向かった。
真っ赤な月が、その旅路を照らしていた。




