エピローグ 記憶の未来は、誰の手に
巨大塔オルド=アーカイブの崩落から三日後。
空は嘘みたいに澄み、黒炎の煤が消えた世界に、穏やかな風が吹いていた。
犯罪の発覚 。イグニス帝国の崩れゆく巨影
ヴァルガ・イグニスの死とともに、
隠されていた記憶記録が公開された。
過去の映像記録が都市中の魔導スクリーンに映し出される。
・エリシアの研究を奪った証拠
・記憶燃焼術の危険性
・40年前の暴走事故の真相
・パンドラ博士の人体利用データ
・帝国軍部による記憶犯罪
国中が凍りつき、
民衆から怒号が上がった。
軍事省は瓦解し、
パンドラ博士は黒紫のローブを引きちぎられながら拘束される。
「フヘヘッ……!
わたしの研究は……未来を変えるのに……!!」
連行される博士に
ルアーナは冷たい視線を向けた。
「未来は、あなたが考えるほど安っぽくないのよ」
イグニス帝国は緊急政権に移行し、
関係者は軒並み逮捕された。
世界はようやく“記憶犯罪”という闇に光を当てたのだ。
ノアの覚醒と恐怖
“自分は何者なのか”
瓦礫が連なる平原の中で、
ノアは静かに座り込んでいた。
レイヴが声をかける。
「調子はどうだ、ノア」
ノアは胸を押さえ小さく震える。
「……わたし……怖い。
だって……わたしの中にエリシアさんの記憶が……ある」
その瞳は、まだ幼い少女そのものだった。
けれど、その奥に揺れる光は――
かつてエリシアが持っていた理性の輝きだった。
「わたしって……誰なの?
ノア?
それとも……エリシアさんの……残り」
アイゼンがゆっくりと歩み寄る。
「ノア。
お前はお前だ。他の誰でもない」
「でも……!
わたし、全部思い出しそうなの……!」
「思い出したとしても、だ」
アイゼンは膝をつき、目線を合わせる。
「それは“ノアの未来”になるだけだ。
誰かの記憶に支配されるんじゃない。
使うんだ。
お前の望む形で」
ノアは涙をこらえながらうなずく。
「……うん。
未来……見たい」
塔の戦いで全力を使い果たし、
アイゼンの杖は焦げ、髭には白い灰が残っていた。
リュカが気遣わしげに尋ねる。
「これからどうするんです?
魔導捜査官としては、たぶん……」
「もう、第一線には戻れんだろうな」
その言葉には、悲しみではなく、
どこか晴れやかさがあった。
「エリシアとの約束を果たした。
これ以上の贅沢はない」
ルアーナが笑う。
「じゃあ……新しい研究を一緒にやる?
“記憶を守る魔導”とかさ」
「ハッ、まだ俺をこき使う気か」
「もちろんよ。おじいちゃんなんだから」
アイゼンは苦笑し、
遠くの空を見上げた。
「未来は……若い奴らに任せるさ。
俺はその背中を押すだけで充分だ」
レイヴとラルグ
死神たちの別れ
死神ラルグは拘束用の鎖をまとい、浮遊したまま静かに語った。
「レイヴ。お前は……死神として失格だ」
レイヴは笑って指を立てる。
「知ってるよ。
だって俺は――友達ができちゃったからな」
「友……達……?」
ラルグは理解できないというように目を細める。
レイヴはノアの方を指さした。
「守りたい奴がいる。それだけで理由には十分だ」
「……その選択が、お前の地獄になるぞ」
「かもな。でも、
“守れなかった後悔”よりマシだ」
ラルグは静かに瞳を閉じた。
「……愚かだ。しかし……美しいな」
死神の鎖がラルグを虚空へ引き戻していく。
「さらばだ、レイヴ。
お前が選んだ未来が……どうか長く続くことを祈る」
「ありがとうよ、相棒」
ラルグは闇へ消えた。
世界の“再起動”
そしてノアは歩き出す
逮捕連行される帝国の首謀者たちを見送りながら、
ノアはアイゼンのローブの袖をぎゅっと掴んだ。
「わたし……これからどうしたらいいの?」
「決めるのは、お前自身だ」
「……一緒にいていい?」
アイゼンは微笑み、ノアの頭を軽く撫でた。
「当たり前だ。
お前はもう。家族みたいなもんだ」
ノアは初めて、安心したように涙をこぼした。
レイヴ、ルアーナ、リュカも隣に並ぶ。
ルアーナ
「未来を作るのは、わたしたちよ」
リュカ
「記憶があるから、優しくなれるんだと思う」
レイヴ
「よし、次はどこ行く?地獄以外で頼むぜイヒヒヒヒ」
ドッと笑いが起きる。
崩れた塔の向こう
新しい朝日が世界を照らしていた。
その光の中でノアは胸に手を当てる。
(わたしはノア。 でも……エリシアさんの想いもちゃんと持ってる)
(未来は……怖くない)
「さあ、行こう!」
少女は走り出す。
アイゼンたちもその後に続いた。
「アイゼンハワード最後の旅8 炎の記憶— 永遠のメモリー」
ーTHE ENDー
ノア
年齢:12〜13(推定)
職業:不明
特徴:記憶が名前以外ほぼゼロ
弱点:自分の存在理由
役割:
・“無音の炎”に唯一耐えた少女
・のちにエリシアの記憶断片が宿る
・世界の運命を左右する重要キャラ
エリシア・フロスト
年齢:没時30代前半
職業:天才魔導技師
特徴:穏やか・理性的・強い芯
過去:アイゼンの恋人
役割:
・40年前の事件の中心人物
・死んだはずだが“記憶”がノアに残る
・事件の真相を握る存在
敵(イグニス帝国関連)
ヴァルガ・イグニス
年齢:50代
職業:イグニス帝国 軍事大臣
特徴:冷酷・計算高い・黒炎の使い手
能力:記憶燃焼術(記憶を燃やして力にする)
役割:
・40年前の真犯人
・アイゼンの過去を踏みにじった張本人
・今回の事件を再起動させた男
パンドラ博士
年齢:40代半ば
職業:異世界バイオ魔術学者
特徴:黒紫ローブ・奇妙な笑い「フヘヘ」
役割:
・記憶抽出装置の開発者
・エリシアの遺体を保存した張本人
・ルアーナと科学バトル
死神勢力
ラルグ・マグナム
年齢:数百歳
職業:元死神
特徴:冷酷・規律の鬼
弱点:レイヴの“友情”概念
役割:
・レイヴに「死神の仕事に戻れ」と迫る
・ノアの存在に警戒
・最終局面でレイヴを揺さぶる黒い影
その他(舞台・国・組織)
イグニス帝国
北方の魔導軍事国家。
“レッド・メモリー事件”が起きた地。
アウロラ・ラボ(科学都市)
記憶を商品化する狂気の研究都市。
パンドラ博士が支配している。
オルド=アーカイブ(廃研究塔)
アイゼンとエリシアが共同研究していた場所。
物語終盤の舞台。




